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2021 年度 実施状況報告書

古民家を構成する里山資源の利用にみられる伝統的な知識体系とその地域多様性の解明

研究課題

研究課題/領域番号 20K06106
研究機関信州大学

研究代表者

井田 秀行  信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (70324217)

研究分担者 土本 俊和  信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (60247327)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード古民家 / 茅場 / 森林資源利用 / 里山 / 樹種選択 / 伝統的生態学的知識 / ブナ
研究実績の概要

(1)長野県飯山市と福島県只見町の古民家の使用木材種を比較した。飯山(7棟)ではスギ・ブナ・ミズナラ、只見(11棟)ではスギ・キタゴヨウ・ブナが主体であり、それぞれ現植生を代表する樹種であった。ブナが屋根を支える部材や梁・桁に選択的に使用されていた点は両地域で共通していた。耐積雪圧性の高いブナの利用は豪雪地における合理的な伝統的知識であるといえる。只見町では、建材は周りの山林から調達され、それを選定する職人「モトヤマ」が集落ごとにいた。
(2)長野県小谷村の茅場において2020年に続き昆虫相を把握した。火入れ1ヶ月後には既に多くの種が発生ないし周辺から飛来していた。バッタ目では前年同様イナゴモドキとミカドフキバッタが多く、トノサマバッタは前年より多く確認された。約1000 m付近でショウリョウバッタモドキが局所的に棲息し、これは従来の最高棲息地(約600 m)を超える記録である。
(3)富山県南砺市五箇山菅沼集落の茅場の植生を詳細に把握したところ、良質な茅(屋根材:カリヤス)を育成するための「ナカガリ」や「ソウジ」といった伝統的な除草管理が、多様な草原生植物の生育環境を副次的に成立・維持させていることが示唆された。
(4)広島県福山市郊外の昭和前期建築の木造民家1棟では、当時周辺に広がっていたアカマツ二次林やスギ植林を由来と考えられる木材が、それぞれ水平材と垂直材に明瞭に使い分けられていた。当民家では、戦争の影響によって木材の節約が図られていたものの、入手可能な木材を最大限に活かした工夫が各所になされていた。
(5)広島県北広島町の農家建築1棟では、水平材には主にアカマツとスギが使用され、垂直材には主にクリとスギが使用されていた。戦前に建てられた主屋と戦後の増築部では樹種構成比に違いが見られ、これには周辺の植生およびその利用形態が変化したことが少なからず影響していると推察された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

当初予定していた各地での地域住民へのヒアリング調査が、新型コロナウィルス感染予防の観点から実施困難となったものの、広島県での民家調査が2件可能となった(研究実績の概要4と5に相当)。これらは当初の計画にはなかったものの、本研究課題に合致するものであり、当該調査は新たな知見を与えるものであった。

今後の研究の推進方策

古民家を構成する里山資源の利用にみられる伝統的知識の体系化とその生態学的意義を明示するため、最終年度には以下を実施する。
(1)長野県飯山市・福島県只見町・広島県北広島町(いずれもブナ帯の多雪地)の古民家の使用樹種や周りの植生との関係性についてこれまでのデータを総括し、それぞれの相違点と共通点について比較検討する。広島県北広島町では新たに1棟の調査を行う。
(2)古民家の屋根材を産出する茅場の伝統的知識の地域多様性を明らかにするため、火入れによって維持されている茅場(長野県小谷村)と、火入れを行わず徹底的な刈り取りによって管理されている茅場(富山県南砺市五箇山地区)における管理形態や植生構造等を生態学的観点から比較検討する。小谷村の茅場では、火入れの抑制が茅の品質にどのような影響を与えるのかを実験的に調べる。
(3)新たな研究課題に資する調査研究として、都市郊外の木造民家の資源利用形態について追究するとともに、森林資源を利用する伝統的な司祭に着目し、そこでの森林の持続利用可能性について検討する。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (4件) (うちオープンアクセス 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 長野県小谷村に残る伝統的茅場の昆虫相(続報): 2020年と2021年の調査結果2022

    • 著者名/発表者名
      丸山隆、井田秀行
    • 雑誌名

      信州大学教育学部附属志賀自然教育研究施設研究業績

      巻: - ページ: 45-56

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 昭和前期に建てられた木造住宅の使用木材種:広島県福山市松永町の民家の事例2022

    • 著者名/発表者名
      田中捺貴、阿部伶奈、土本俊和、井田秀行
    • 雑誌名

      景観生態学

      巻: 27 ページ: 印刷中

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 山ノ内町社会体育館の建築的特徴の分析2021

    • 著者名/発表者名
      秋山昌輝、土本俊和
    • 雑誌名

      2021年度日本建築学会大会(東海)梗概集

      巻: - ページ: 749-750

  • [雑誌論文] 一遍上人絵伝に描かれた踊屋が示す棟持柱構造2021

    • 著者名/発表者名
      輿恵理香、李雅濱、土本俊和
    • 雑誌名

      2021年度日本建築学会大会(東海)梗概集

      巻: - ページ: 897-898

  • [学会発表] 只見町の古民家は何の木でつくられているのか?~2015年から2021年の調査のまとめと今後の展望~2022

    • 著者名/発表者名
      阿部伶奈、 岡本誠矢、土本俊和、井田秀行
    • 学会等名
      令和3年度 「自然首都・只見」学術調査研究助成金事業・学術調査研究成果発表会
  • [学会発表] 富山県五箇山菅沼合掌造り集落の茅場においてカタクリ群落を成立・維持させる植生管理の形態2021

    • 著者名/発表者名
      井田秀行、新井千夏
    • 学会等名
      植生学会第26回大会
  • [学会発表] 福島県只見町における古民家の使用木材種の地域性2021

    • 著者名/発表者名
      阿部伶奈、土本俊和、井田秀行
    • 学会等名
      第7回山岳科学学術集会
  • [学会発表] 東御市海野宿伝統的建造物群保存地区-伝建地区における滞在型交流施設「うんのわ」の整備-:歴史を活かしたまちづくり-伝建制度創設半世紀にむけて2021

    • 著者名/発表者名
      土本俊和
    • 学会等名
      2021年度日本建築学会大会(東海)
  • [図書] 景観生態学2022

    • 著者名/発表者名
      井田秀行
    • 総ページ数
      5
    • 出版者
      共立出版
    • ISBN
      9784320058347

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公開日: 2022-12-28  

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