本研究は、樹木の葉の内部に共生的に生息している菌類の定着様式を明らかにすることを目的とした。樹種間での比較の際に邪魔になる環境要因の変化を単純化するために、湿原に点在するマウンドにおいて同所的に生育している背の低い矮性樹木種の4樹種を対象にして、その葉の内生菌類の調査を行って、樹木葉の内生菌類群集の定着様式の傾向を調べた。調査対象の4樹種は、各々地下の根系に定着する共生微生物が異なる樹種であり、分類学的な類縁性だけでなく種ごとの樹木の生理的な背景と、葉の内生菌の定着様式の関係性が明らかになることが期待できる。葉の内生菌の種構成は、培地上にのせ伸長してくる菌糸の培養菌株を形態により分け、それら各菌株からDNAを抽出してrDNAのITS領域をPCRにより増幅し、サンガーシーケンスによって配列を確定して菌の種同定をおこなった。さらに、菌の分離に用いた葉の一部を、次世代シーケンサー(NGS)を用いたアンプリコンシーケンス解析に供し、葉内の内生菌類群集の網羅的な検出も行った。その結果、両方の手法共に定着している葉の内生菌の種多様性が非常に高いことが示された。分離培養を経て得られた内生菌の優占種と、NGSで直接的に検出された内生菌の優占種は異なっており、培地への分離を経る過程で多くの内生菌類種が検出出来ていないことが示された。NGSによる内生菌群集の網羅的な検出結果について、非計量多次元尺度による群集の空間配置を比較したところ、樹種ごとに定着している内生菌の種構成に違いがあることが確認された。 特に,分類群の近い樹種では,根系の特異的な共生菌が異なるにもかかわらず、葉の内生菌の種構成は類似していることが示され,葉の内生菌の特異性の傾向が示された.
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