研究課題/領域番号 |
20K06124
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
鳥丸 猛 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (10546427)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブナ林 / 乾燥関連性遺伝子 / 一塩基多型 |
研究実績の概要 |
日本海側[大山(鳥取),白山(岐阜),白神山地(青森)]と太平洋側[段戸山(愛知),三峰山(三重),鷹ノ巣山(広島)]のブナを対象とし,すでにヨーロッパブナで報告されている乾燥関連性遺伝子領域を増幅するPCRプライマーのブナへの適用可能性を検討した。その結果,乾燥関連性遺伝子の候補遺伝子27遺伝子領域のうち,10遺伝子領域で単一のPCR増幅産物が認められ,塩基配列を表す波形が鮮明であり,アライメントすることができた。これら10遺伝子領域には,挿入・欠失が合計29箇所認められた。SNP総数は104個であり,そのうち,非翻訳領域には60個,同義置換領域には25個,非同義置換領域には19個認められた。それらのうちで一塩基の多型性の高い4遺伝子領域を用いて集団解析した結果,遺伝子領域あたり17~36個のハプロタイプが推定され,非翻訳・同義置換領域の塩基多様度は非同義置換領域の3.7~8.8倍の値を示した。 対象とした遺伝子領域全体と非翻訳・同義置換領域の一塩基多型の主成分分析では,第一主成分の正の方向に太平洋側,負の方向に日本海側の集団がまとまる傾向が認められた。一方,非同義置換領域のSNPの主成分分析では,第一主成分と第二主成分のいずれにおいても日本海側と太平洋側の地域間で明確なパターンは認められなかったが,第二主成分のばらつきに最も寄与していた遺伝子をみると,配列の32番目のサイトに認められるSNPにおいて小規模・孤立集団である鷹ノ巣山集団で非同義置換をともなう変異を検出した。 乾燥関連性遺伝子の発現様式を定量するための材料としてブナ実生に着目し、青森県白神山地と白岩森林公園のブナ自然木から種子を採集した。種子を研究室に持ち帰り、低温湿層処理を行い、次年度の発芽試験ならびに乾燥処理実験のために保管した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の遂行に欠かせない乾燥関連性遺伝子マーカーについては、当初のRNA-seqによる同定がうまくいかない場合への対応としてヨーロッパブナですでに知られている乾燥関連性遺伝子のブナへの適用可能性を検討し、利用可能な遺伝子領域を複数検出することに成功した。RNA-seqによる新規の乾燥関連性遺伝子の探索についても、実験材料となるブナ実生を確保することができ、発芽試験と乾燥処理実験の準備も整っている。さらに、本課題と関連のある共同研究のよってブナのドラフトゲノムを改良し、N50を数Mbpまで引き上げることに成功しており、ゲノム解析における一塩基多型の検出力やRNA-seqにおけるマッピング精度の向上が期待できる。そのため、進捗状況としてはおおむね順調であるものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
採取された種子については、研究計画に従い発芽させたものを乾燥処理実験に供する予定であるが、水分条件に関する処理数を2処理に減らし、処理間の水分条件の差をより明確にすることで表現形質の処理間差を検出しやすくする計画である。また、乾燥処理が実際に植物体の生理現象に変化を及ぼしているかを確認するため、乾燥ストレスの指標であるプロリンやその他の環境ストレスに応答するマロンジアルデヒドなどを定量する。 ヨーロッパブナからブナへの転用可能性が確認された乾燥関連性遺伝子領域については、MinIonへの適用するためにプライマー配列を改良するとともに、多検体シークエンシングを実施する計画である。
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