研究課題/領域番号 |
20K06126
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
谷口 武士 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 准教授 (10524275)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乾燥地 / 乾燥ストレス / 根部内生微生物 / 機能形質 / 群集形成プロセス |
研究実績の概要 |
令和2年度は2月に調査地であるアメリカ、カリフォルニア州にあるBoyd Deep Canyon Desert Research Centerにおける野外調査を行う予定であったが、コロナウイルスの影響で今年度は調査を行うことができなかった。また、今後も先行きが不透明なため、前年度に採取したサンプルを利用した分析と実験を行うことで、根部内生微生物群集の形成プロセスと乾燥地植物の適応度向上の関係を明らかにすることとした。本年度は調査地から採取した土壌を用いて、異なる水分条件下でキク科植物、Encelia farinosaを3か月間育成し、根圏土壌、細根、そして主根のサンプリングを行った。また、植物の形質として、各器官別乾燥重量、葉の浸透圧、葉面積、葉の炭素および窒素安定同位体比、葉に含まれる元素分析、そして根の代謝物を測定するためのサンプルを採取した。乾燥重量は湿潤環境下で大きいが、地上部/地下部重量比は乾燥条件下で減少した。また、窒素安定同位体比では処理区間で有意な違いを示さなかったが、炭素安定同位体比は乾燥環境下で増加し、気孔を閉じる傾向にあることが推察された。これらの結果から、水分条件を適切に制御した実験を行えていたことが確認できた。また、葉の全炭素および全窒素は乾燥条件下で多く、様々な代謝物が蓄積されている可能性が示唆された。根圏土壌、細根、主根に生息している微生物については、分離・培養を行った。本実験について、今後は根の代謝物解析を進めるとともに、細菌及び真菌のPCR産物を用いたシーケンス解析を行い、湿潤、および乾燥条件下での生息部位ごとの微生物相の変化と植物形質との関係について解析を進めていく予定である。また、分離培養を行った微生物については、種推定と接種試験を進めることで、個々の微生物の生息部位と植物機能との関係を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はコロラド砂漠で広く認められるキク科植物、Encelia farinosaを対象として、①環境と宿主植物のそれぞれによって形成された微生物群集と優占微生物種の特定、②環境と宿主植物のそれぞれによって形成された微生物群集の植物への機能評価実験、③環境と宿主植物よって形成された微生物群集における優占微生物の機能評価を行う。これらの実験から、根部内生微生物群集の形成プロセスと乾燥地植物の適応度向上の関係を明らかにすることを目指している。①については、コロナウイルスの影響から、アメリカの調査地でサンプルを採取する先行きが不透明であるため、昨年度、調査地で採取した土壌、細根、そして粗根を対象とした細菌と真菌のPCR産物を用いたシーケンス解析を今後進める。②については、1回の室内実験を今年度終了しており、次年度、残りの測定を完了する予定である。また、ここから分離培養した微生物の菌株整理を進めて、接種試験を行うことで③を達成する見込みであり、研究目的の達成に向けて概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた2回の調査が困難であるため、保管しているサンプルを用いて研究目的を達成する。しかしながら、野外サンプルと栽培実験の反復を保管サンプルのみで賄うことができないため、実験①から③の結果をまとめて取り扱うことで、根部内生微生物群集の形成プロセスと乾燥地植物の適応度向上の関係についての結果を信頼性の高いものとする。今後必要となる代謝物解析については、協力研究者の協力のもとに効率的に分析を進めていく。また、微生物のシーケンス解析については、受託分析を用いることで次年度内に分析を終了する予定である。微生物の菌株整理については、所属機関で所有している電気泳動装置(MultiNA)を用いることで、ハイスループットに種分別を行い、その後の菌株選択と接種試験につなげる。
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