研究課題/領域番号 |
20K06127
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
小林 剛 香川大学, 農学部, 准教授 (70346633)
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研究分担者 |
鈴木 重雄 駒澤大学, 文学部, 准教授 (40581476)
福島 慶太郎 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (60549426)
久本 洋子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (60586014)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 竹林 / ハチク / 大規模開花 / 一斉開花 / 分布 / 更新動態 / タケ亜科植物 / タケ類 |
研究実績の概要 |
1)2010年代から生じている西日本におけるハチクの大規模開花の背景として,日本における竹林の分布を自然環境保全基礎調査の全国植生調査データベース(環境庁)を用いて解析した。マダケ属は九州から東北にかけて広く分布していたが,ハチクはモウソウチクよりも太平洋側にも偏在する傾向にあった。また,ハチクは落葉広葉樹林などの比較的明るい群落内に出現しやすい一方で,群落の最上層の優占種となっている地点は少なかった。ハチクはモウソウチクよりも高木との競争で劣勢となりやすく,常緑広葉樹林などの厳しい被陰に晒される場所では優占度を高めにくいことが示唆された。ハチクの開花後の枯死と実生更新の失敗は,高木との競争においてさらなる劣勢を促しうる。
2)ハチク開花林における植生調査・毎ラメット調査では,開花後に生残していた地下茎から発生したと考えられる矮小再生ラメットが,広葉樹の侵入拡大にともなう光環境の悪化によって密度を激減させながらも,5年以上にわたって持続していた。過去にマダケで指摘されていたような栄養繁殖による更新の可能性を診断するため,生残している矮小再生ラメットの生育高と受光環境との関係の解析を開始した。ハチク開花林の近隣にマダケ林(非開花)が存在する地点では,ハチクの枯死・倒伏後にマダケ(通常ラメット)の侵入によって矮小再生ラメットが被陰されていた。ハチクの矮小再生ラメットの持続は,高木や他のタケ類の負の影響の小さい林縁や林道沿いなどに制限される可能性が高い。
3)西日本を中心にタケ類の開花地を引き続きGoogle Map上に記録した。ハチク(および近縁種のクロチク)以外にもモウソウチクやキンメイチクなどの局所開花が各地で散発している。開花竹林の遺伝構造および開花時の栄養状態や開花後の物質循環に対する影響の解析のために,各地におけるハチクの生葉の採取と解析の準備をさらに進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に指摘した,開花・枯死後の結実・実生更新の失敗によるハチクの衰退と広葉樹林への遷移の可能性に係わる情報を強化できた。また,栄養成長による回復・再生や,他の竹林への移行の可能性もあることが分かってきたが,さらなる長期的なモニタリングや推定モデルの作成などが必要である。 新たな開花地の出現は減少しつつあり,複数の開花林分内(ある林分内のラメット間)および開花林分間(開花林分・非開花林分間を含む)における遺伝構造(ジェネットの構成と分布)の解析のための調査地を得にくくなっており,ある林分内で全ラメットから生葉を採取するようなサンプリングが実現できていないものの,それを踏まえた解析と結果の解釈の準備は徐々に進行しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
栄養成長により発生した矮小再生ラメットの生残は,開花林分そもものよりも隣接する林縁や林道沿いなどで生じやすい可能性があるため,前年度までの調査枠とは異なる体系での現地調査の継続によって情報を得ていく。従来の調査地のさらなるモニタリングおよび新たな調査地を設定し,広葉樹林だけでなくマダケ林への推移の可能性を裏付ける。
予想できない開花のタイミングや開花中・開花後の急速な脱葉・枯死の進行によって理想的なサンプリングができない場合でも,遺伝構造や開花パターンの考察が可能な研究アプローチを整備する。採取した生葉の炭素,窒素およびリンの含量から開花中のラメット内の栄養状態を把握し,開花枯死後の再生と開花林分の物質循環に対する影響の手がかりとする。
結実に成功したモウソウチクの開花林では実生が発生し,矮小再生ラメットがほとんど発生しないことが並行した調査で判明しつつあるため,マダケ属植物の生活史や更新戦略の変異・分化について整理を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ハチクの開花には葉の枯死脱落がともなうため,遺伝構造および栄養状態の分析のための開花ラメットからの生葉サンプルは,十分に確保できているとは言い難い。分析に必要な物品類および分析作業の謝金や委託費の確保のために,資金をプールしている。サンプルをさらに収集・蓄積し,研究課題の実施後半にその分析を集中して行うこととする。
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