研究課題
令和2年度においては、福島県川俣町および浪江町のスギ林、アカマツ・コナラ混交林、及びクリコナラからなる落葉広葉樹林を対象に、森林の内外で雨水を採取するとともに、樹冠から林床へ移動する落葉落枝(リターフォール)と樹冠の枝葉の採取を実施した。雨水及びリターフォールの採取は月1回程度の頻度で行い、枝葉の採取は9月の1回のみ実施した。なお、コロナ禍で移動制限がされる状況のなかで、栃木県佐野市のスギ・ヒノキ林での観測調査は1年間延期し、静岡県静岡市に予定していた新しい調査地点の設置については当面延期することとした。採取した試料を実験室に持ち帰り前処理を行った。雨水については、水試料を吸引濾過でメンブレンフィルターを通過させ、懸濁物質の分離を行った。植物体試料については炉乾燥した後に、ミルで粉砕した。前処理を行った試料をU8型の容器に封入し、ゲルマニウムガンマ線検出器を用いてガンマ線放出核種の測定を行った。なお、Pb-210の定量分析については、福島事故由来の放射性セシウムに由来する高いバックグラウンドの影響で検出できなかったため、化学処理によって放射性セシウムを除去または濃度を低減させる方法について調査を開始した。令和2年度に得られた雨水及びリターフォールのフラックスのデータをとりまとめ、調査森林における水収支と林床へのリターフォール堆積速度を算出した。それらフラックスとCs-137濃度の測定値に基づいて、樹冠から林床へのCs-137の沈着フラックスを定量化した。また、雨水及び枝葉のCs-137濃度を比較することにより、雨水への移行係数を算出した。以上の研究成果について、日本原子力学会秋の大会(2020年9月、オンライン)及び第132回日本森林学会大会(2021年3月、オンライン)において口頭発表を行った。
3: やや遅れている
既存の調査森林サイトにおける観測が予定通りに進捗している。一方で、令和2年度はコロナウィルスの影響で移動が制限される状況が続き、新たに観測システムの設置が必要な栃木県佐野市の森林サイトでは設置作業が遅れている。また、新たに調査サイトを選定する必要がある静岡県静岡市の候補地においては、調査を当面延期することを検討しており、前述の2つの調査森林を活用することで、当初予定していた調査を補完する準備を進めている。放射性核種トレーサの定量分析においては、試料に含まれる福島事故由来の放射性セシウムのバックグラウンドの影響で、低濃度の天然放射性核種のPb-210濃度の定量分析が遅れており、化学分離処理の方法の確立に時間がかかっている。
令和3年度は、福島県及び栃木県の調査森林サイトにおいて、雨水やリターフォールは1ヶ月に1回程度の頻度で、枝葉は年1~2回程度の頻度で現地サンプリングを実施する予定である。また、昨年度には実施しなかった降雨時の集中観測を実施し、年間5イベント程度について詳細な観測データを取得する。集中観測により得た雨水及びリターフォール、さらに樹冠の枝葉の試料について、ゲルマニウムガンマ線検出器を用いて福島事故由来のCs-137及び天然放射性核種のPb-210の濃度を定量分析する。福島原発事故による初期沈着量が多い福島県の森林サイトにおいては、ガンマ線分析における事故由来の放射性セシウムのバックグラウンドの影響を除去するために化学分離方法を確立し、前年度の雨水試料についても同処理を行う。その処理方法の確立の目処がつくまでは、バックグラウンドが相対的に低い栃木県佐野市での採取試料についてPb-210の定量分析を中心に進める。以上の観測データに基づいて、大気から樹冠に沈着した放射性核種の遮断率の算出と、樹冠から雨水への溶出率(濃度比)、及び樹冠から林床への移行速度の解析を実施する。また、放射性核種分析に加えて水の安定同位対比を分析し、それらの濃度情報をもとに林床に到達した雨水の土層中での選択的浸透過程について解析行う。令和2年度調査と以上の研究成果について、ヨーロッパ地球科学連合年次大会(2021年4月)、日本地球惑星科学連合年次大会(2021年5-6月)、日本原子力学会秋の大会(2021年9月)及び第133回日本森林学会大会(2022年3月)において成果報告を行う予定である。
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Nature Reviews Earth & Environment
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