本研究では、温暖化の影響が深刻化する北方林において森林の重要な窒素源の一つとされながら低温環境下での利用実態が明らかでない硝酸態窒素について、微量同位体比分析技術を用いて植物葉の液胞中に蓄積された硝酸態窒素の有無とその由来について複数の樹種および生育環境下で調査することを目的として研究を行った。調査対象地はモンゴル北部の北方林であったが、COVID-19の感染拡大のため、日本の山岳地帯に変更して実施した。山岳地帯の標高差を利用し、様々な生育環境下から複数の樹種を対象として、樹種ごとの硝酸態窒素利用について調べたところ、硝酸態窒素の吸収利用は樹種特性や生育環境による違いがあることが明らかになった。また、樹種ごとに樹木葉中の硝酸態窒素含量に差があり、潜在的な硝酸態窒素吸収能力も標高により異なる樹種も存在した。例えばカラマツの葉内硝酸濃度はオオシラビソの約2倍あったが、オオシラビソの硝酸態窒素の吸収は標高が高いほど多い傾向があることが明らかになっている。このように、硝酸態窒素は低温環境下に生育する一部の樹木の窒素源として重要な役割を果たしていると考えられた。研究期間中に1年間の研究中断期間があり、最終年度には研究成果のまとめを行なった。本課題により、低温環境下で樹種ごとの硝酸態窒素の利用能力が明らかになったため、今後はそれらが樹木や森林の成長量へどのように影響するかについて明らかにすることが北方林の窒素動態や温暖化の影響評価のために重要となると考えられる。
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