研究課題
本研究の目的は、雪害による自然撹乱前後のスギ林の生態系機能とその変動メカニズムをフィールド観測と生態系モデリングの統合により解明することである。2014年12月に雪害が生じた岐阜県高山市のスギ林(重点研究サイト)における2006年から2022年までの17年間のタワーフラックスデータの解析により、雪害後の2015年以降、徐々に純生態系生産量が増加していることが明らかとなった。また、雪害前のフラックスデータを用いて最適化した生態系モデルを用いて、雪害前(2006年から2014年)と雪害が生じなかった場合を想定した2015年から2022年の炭素循環を推定した結果、2015年以降、モデル推定値と観測値の差が大きくなることが明らかとなった。したがって、2015年以降の純生態系生産量(NEP)の増加は、気象学的要因による影響というよりは、雪害による撹乱の影響であることが示唆された。純生態系生産量の増加の要因として、次のような複合的な要因が考えられた。第一に、生態系調査区内の毎木調査の結果から、雪害後の落葉低木(タラノキ、ハリギリ、コシアブラ等)の侵入がNEPの増加に寄与したことが示唆された。第二に、生態系調査区内における健全木、樹冠一部残存木、樹冠全損木の幹表面呼吸量の観測から、スギ個体による幹表面呼吸量の減少がNEPの増加に寄与したことが示唆された。第三に、雪害によって生じた粗大有機物の呼吸量観測から、無降雪期間における粗大有機物呼吸量は、50 gC/m2/year程度と推定され、生態系呼吸量への寄与が小さいことが雪害後のNEPに影響したと示唆された。本研究では、雪害による撹乱前後計17年間の生態系機能とその変動メカニズムを明らかにしたが、スギと落葉広葉樹の混交林化が進行しており、雪害による撹乱が生態系機能に及ぼす長期影響を解明するためには、さらなる長期観測が必要であると考える。
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Ecological Research
巻: 38 ページ: 111-133
10.1111/1440-1703.12371