特定の重要樹木病原菌を属レベルで選抜し、それらを異なる植物群系ごとに分類学的再検討を行い、種多様性を比較検討することを目的に研究を実施した。本年度は特に葉枯性の病原菌であるPseudocercospora属菌の包括的分子系統樹およびモノグラフ的研究を世界の共同研究者と実施し、公表した。また、重要な胴枯・枝枯性樹木病原菌であるLasiodiplodia属菌の日本産種とアジア圏種との分子系統、培養性状などによる比較研究を実施した。 期間全体では葉枯、胴枯、枝枯性の重要な樹木病原菌のPhyllosticta属、Botryosphaeria属菌、Neofusicoccum属菌、 Lasiodiplodia属、の分子系統関係や培養性状、病原性の分化を明らかにするとともに、これらの結果を基に世界各地の既知種と比較し、東南アジアから多くの新種や基準となる標本の再設定を報告するとともに、植物に強く依存する種であってもこれまで記録されている以上に種多様性に富んでいることが明らかになった。これは、日本国内でも海流分散や島嶼効果による種分化が見られること、内生的生活を送る病原菌から明らかに病原菌が分化していること、一方宿主の視点から植物区系をまたいだ種の分布や移動、さらには種分化が生じていることが主な理由であり、それぞれ論文として発表した。特にPseudocercospora属菌の世界的な分子系統解析については分布や種分化、多様性を詳細検討し有力誌に報告した。また、熱帯果樹を始めとする植物に広く病害を引き起こす Colletotrichum gloeosporioides種複合体の迅速診断技術としてLAMP法を用いて検出する技術を開発した。さらには現在、Cystospora属、Elsinoe属、Septoria属菌の日本産種をモデルにの種分化と分類学的再検討の結果を投稿中となっている。
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