研究課題/領域番号 |
20K06147
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鎌倉 真依 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(RPD) (40523840)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高木限界 / 標高傾度 / 資源獲得・利用 / 生理生態 / 環境脆弱性 |
研究実績の概要 |
本研究は、標高傾度に沿った樹木の光・水・窒素の獲得と利用特性を明らかにし、厳しい環境ストレスに対する樹木の適応性と脆弱性を評価することを目的としている。 北アルプス・乗鞍岳の標高2,500 mに優占する4樹種(ナナカマド、ダケカンバ、オオシラビソ、ハイマツ)の光合成および水利用特性について調べたところ、樹種ごとに異なる特徴を示した。低木の落葉広葉樹のナナカマドは、気孔制御や葉の浸透調節により水利用効率を高めて光合成・蒸散を維持しており、リター生産量が高かった。高木の落葉広葉樹のダケカンバは、土壌―葉の通水コンダクタンスが大きいことで一日を通して高い蒸散速度を維持しており、高い幹生長・リター生産量を示した。高木の常緑針葉樹のオオシラビソは、土壌―葉の通水性と貯留量が大きいことで水利用効率を高めており、幹生長量が4樹種の中でもっとも高かった。矮性低木の常緑針葉樹のハイマツは、失水に強く、貯水性の高い葉を持つことで脱水回避しており、常に安定した水利用効率を維持していた。 また、標高1,600~2,500 mにおいて、ダケカンバとオオシラビソの葉の水分特性の標高間比較も行った。ダケカンバには季節や標高による有意な違いは見られなかったが、オオシラビソでは、秋に、高標高の葉ほど飽水時の浸透ポテンシャルや萎れ点の水ポテンシャルが低くなっていた。これは、より低温な高標高において浸透調節により耐凍性を高める適応であると考えられる。また、季節を通じて葉細胞の弾力性が高標高で高かった。これまで、一般的には高標高の葉ほど強風などのストレスに耐えるために葉細胞は硬くなると考えられてきたが、本研究結果はそれとは逆の結果を示した。弾力性が高い葉ほど失水に対して膨圧を維持することができるため、高標高ほど弾力性の高い葉を持つことにより、細胞内凍結を防いでいるのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、新型コロナウィルスの影響で予定していた調査をすべて行うことはできなかったが、限られた期間の中で調査・分析を進めた。また、Google formを利用して共同研究者とともにこれまでのデータの取りまとめを行い、投稿論文の執筆を進めている。以上の点から、本課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、乗鞍岳に加えて、中央アルプスに位置する西駒ケ岳(NKM)サイトにおいても、高山植生の環境適応性と脆弱性を評価する研究を進めていきたいと考えている。NKMサイトは、2018年よりハイマツ帯においてCO2・H2Oフラックスの連続測定が開始されている。そこで、フラックス観測と生理生態学的研究とを組み合わせることにより、個葉~個体~群落における高山樹木の環境ストレスに対する応答性を明らかにすることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、新型コロナウィルスの影響で、当初予定していた調査や分析をすべて行うことができなかった。そのため、次年度使用額が生じた。次年度は、予定通り調査研究が行ええる場合とできない場合の二通りのプランを想定しながら研究を進めていく予定である。
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