研究実績の概要 |
本研究は、標高傾度に沿った樹木の生理生態学的特性を明らかにし、厳しい環境ストレスに対する樹木の適応性と脆弱性を評価することを目的とした。 北アルプス乗鞍岳の標高2,500 mに優占する4樹種(ナナカマド、ダケカンバ、オオシラビソ、ハイマツ)は、異なる光合成および水利用特性を示した。低木の落葉広葉樹のナナカマドは、気孔制御や葉の浸透調節により水利用効率を高めており、リター生産量が大きかった。高木の落葉広葉樹のダケカンバは、土壌―葉の通水コンダクタンスが大きく、高い蒸散速度を維持し、幹成長量とリター生産量が大きかった。高木の常緑針葉樹のオオシラビソは、土壌―葉の通水性と貯留量によって水利用効率を高め、幹成長量が4樹種の中でもっとも高かった。矮性低木の常緑針葉樹のハイマツは、失水に強く貯水性の高い葉をもち、安定した水利用効率を維持した。中央アルプス将棊頭山の標高2,650 m地点のハイマツ帯においても、ハイマツ当年葉は飽差が高くなる秋にも比較的高い気孔コンダクタンスを維持しながら光合成を行っていることを明らかにした。 また、北アルプス乗鞍岳においては、ダケカンバとオオシラビソの葉の水分特性の標高間比較も行った。ダケカンバには季節や標高による有意な違いは見られなかったが、オオシラビソでは、秋に、高標高の葉ほど飽水時の浸透ポテンシャルや萎れ点の水ポテンシャルが低くなっており、低温環境での浸透調節により耐凍性を高めていることが示唆された。また、高標高ほど葉細胞の弾力性が高かった。これまで、一般的には高標高の葉ほど強風などのストレスに耐えるために葉細胞は硬くなると考えられてきたが、本研究結果はそれとは逆の結果を示した。弾力性が高い葉ほど失水に対して膨圧を維持できるため、弾力性の高い葉を持つことにより、細胞外凍結を防いでいると考えられる。
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