研究課題/領域番号 |
20K06152
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
北村 系子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (00343814)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ブナ / 分布拡大 / 北進 |
研究実績の概要 |
本年度は北進最前線のブナ個体群における遺伝的多様性の獲得機構について、種子および花粉流動を解析することによって明らかにした。具体的には、マイクロサテライト遺伝子座8座を使った解析によって、定着初期から現在に至る遺伝子流動の変化を捉えることができた。この成果は、分布変遷に伴う遺伝的多様性維持機構の解明に資する。 背景として、約6000年前に渡島半島の南端から北進して約1000年前に北限の黒松内に到達したと考えられる。ところが、2013年に北限とされていた場所からさらに10km以上北に150本ほどのブナの小集団が発見され、ブナは今もなお分布を拡大していることがわかった。この北進最前線のブナ林の遺伝的多様性が、どのように変化してきたのかを調べるために、マイクロサテライト遺伝子座8座を用いて解析を行なった。 この集団で最高齢のブナは今から100年以上前に定着したもので、これらの創始者数本の遺伝的多様性は非常に低かった。また空間的遺伝構造が検出されなかったことから、創始者集団は南のブナ林から鳥や小動物によって運ばれたごく少数の種子に由来すると推定される。一方、80年前以降に定着した若いブナは、高い遺伝的多様性を示し、先行したブナが大きくなって花をつけ、遠くから飛んでくる花粉を受けて作られた種子や南のブナ林から運ばれた種子に由来すると考えらた。しかし、現在の繁殖では種子や芽生えの遺伝的多様性が増加していなかった。これは、成熟したブナが増え、また大きくなって1本にたくさんの花がつくようになり、集団内での花粉のやり取りが増え、その結果、新しい遺伝子が外から入ってくる割合が低くなったためであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終氷期後(完新世)の温暖化に伴ってどのような経路で分布拡大したのかについて、分布拡大前線における遺伝子流動の評価は完了した。祖先集団の推定について、北海道地域全体を含めた解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
東北地方北部の集団解析を行い、北海道地域全体を含めた祖先集団の推定について、解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症による蔓延防止措置期間中、域外移動を伴う野外調査が行えなかったため、旅費および野外調査により採取予定であった試料の分析費を次年度に使用する。
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