研究課題/領域番号 |
20K06152
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
北村 系子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (00343814)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 島嶼 / 遺存 / 温帯林 / 北限 |
研究実績の概要 |
本年度は島嶼における遺存的なブナ個体群における遺伝的多様性について明らかにし,集団動態の歴史推定を行った。具体的には、ブナ北限地帯の離島である奥尻島の17集団、比較対象として北海道の16集団、東北地方の11集団の計44のブナ集団より1838個体のブナの葉を採取し、母性遺伝する葉緑体DNAと両性遺伝する核DNAの2つの遺伝的変異情報を用いて、大規模な集団遺伝学的解析を行った。その結果、奥尻島のブナ集団の葉緑体DNAからは、全国のブナに見られる日本海側系統(ハプロタイプA)と太平洋側系統(ハプロタイプB)の両系統が検出された。一方、核DNAの遺伝的多様性は奥尻島、北海道、東北地方の3地域で同程度であった。一般に島嶼の植物集団では創始者効果など遺伝的浮動によって多様性が低いことが予想されるが,奥尻島のブナ集団の遺伝的多様性が高く,かなり古い起源の集団を維持してきたことが示唆された。また、同祖性解析では、全個体を2つのクラスターに分けると、大きくは東北地方を主とするクラスターと北海道を主とするクラスターの分布に地理的パターンがあり、奥尻島では両クラスターの混合パターンが見られた。さらに3つのクラスターに分けると、奥尻島を主とするクラスターが検出された。これらの遺伝構造を詳細に評価するために集団動態の歴史を推定したところ、奥尻島のブナ集団は、北海道集団と東北地方集団の混合により形成され、その後も北海道、東北地方のブナ集団からの遺伝的交流があったことが明らかになった。そして、奥尻島の初期ブナ集団の形成は、最終氷期最盛期(約2万年前)よりも以前まで遡る可能性が高いことが示され,奥尻島が逃避地であったことを示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、最終氷期後(完新世)の逃避地について1つの候補を示すことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
他の逃避地の可能性を探るために、北海道道南地区および津軽半島北部について重点的に調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
津軽半島北部の調査地について現地調査が行えなかったため、次年度に使用することとした。具体的には次年度の調査旅費、分析実験のための薬品、および実験補助謝金に使用する。
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