研究課題/領域番号 |
20K06154
|
研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
齋藤 隆実 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (30403108)
|
研究分担者 |
秋山 拓也 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (50553723)
三好 由華 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 研究員 (50781598)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 細胞壁 / 弾性的性質 / 水ポテンシャル / 膨圧維持 / 圧力ー体積曲線 / 水分生理 / 引張試験 |
研究実績の概要 |
個葉の水分生理特性は、圧力―体積曲線(P-V曲線)という線図によって理解できる。このP-V曲線から体積弾性率という指標が得られる。この指標は、葉の細胞が失った水分量に対して、細胞の膨圧が低下する割合から求める。体積弾性率は細胞壁の物理的性質を表していると考えられてきたが、1970年代からほとんどその理解は進んでいない。 体積弾性率が理解しにくい理由の一つに、この指標を規定する葉の内部要因がはっきりしないことが挙げられる。研究代表者らは過去の研究で、体積弾性率と細胞壁の弾性的性質との関係を立証した。しかし、この結果は広葉樹で得たものであり、葉の構造や細胞壁の成分が異なる針葉樹にも当てはまるかどうかは明らかでない。 2020年度および2021年度には、共同研究者二名と採択された申請書の内容を根底から再考した。これは、研究代表者が考えた計画に従って研究が進行するにつれて、共同研究者の発想が失われてしまうのではないかと危惧したからである。共同研究者の経歴は研究代表者と大きく異なっており、細胞壁に対する見方や考え方は全く異なっている。この相違を生かすことで体積弾性率の理解を発展させることができると考えた。 「水と細胞壁」というテーマについて議論を重ね、本課題における本質的な問題は何か、参画者全員の興味が向かう先はどこかを探った。その結果、水分も細胞壁の重要な構成成分であるという新しい認識に至った。一般的に細胞壁の物理的性質は細胞壁の三成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)が担っていると考えられている。しかし、生きている葉の細胞壁には一定量の水分が必ず含まれており、この水分の物理化学的な働きによって細胞壁の物理的性質が大きく変化する可能性が指摘された。この新しい認識も踏まえて、採択された研究計画の基本路線に沿って研究を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者および共同研究者の意見交換に予想以上の時間を要したため、研究計画の進捗が遅れることとなった。研究代表者の研究分野は植物生理生態学であるが、共同研究者の研究分野は木材物性学および木質化学である。これらの分野間の研究の背景が全く異なっているため、参加者間の相互理解に時間をかけた。しかしながら、本課題の参加者全員の関心は同じく細胞壁である。議論を重ねることで、研究代表者の分野になかった研究対象の見方を認識し、利用されたことのない研究手法を応用できる可能性が生まれた。このように相互理解と課題再構築に十分な時間を割くことで、今後の研究の発展の基礎を築くことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画の基本路線は変更せずに、実験計画を後ろ倒しする。作業の手順を見直し、細胞壁の物理的性質の測定および化学的分析を優先し、必要に応じて葉の内部構造の観察を行うこととする。とくに細胞壁に含まれる水分の物理化学特性を変化させたときに、個葉の体積弾性率にどのような変化が現れるかに注目して調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
R2およびR3年度に予定していた、PV曲線の測定および引張試験の検討をR4年度に予定している。これらの実験に使用する窒素ガスなどの消耗品を購入する必要があるため。
|