研究課題/領域番号 |
20K06160
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
三亀 啓吾 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70571701)
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研究分担者 |
佐藤 伸 青森県立保健大学, 健康科学部, 教授 (40310099)
向井 友花 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 准教授 (60331211)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リグニン / フェルラ酸 / 米糠 / キノコ廃菌床 / 酸化分解 / 生理活性 |
研究実績の概要 |
自然界でリグニンは、微生物酸化分解によりタンパク質や金属イオンの吸着能を発現している。今年度終了となる研究課題で,自然界のリグニン酸化分解を模倣し,木材腐朽菌による前処理後,金属酸化物等による化学的処理で,生理活性と関連性が高い長波長UV吸収リグニンオリゴマーの生成効率を高めることに成功した。また,これらの物質を肥満マウスに与えた結果,腎臓の炎症抑制効果が確認された。そこで本研究では,リグニン酸化分解物の更なる機能化と,リグニン構造と生理活性の相関解明に向け,二つのアプローチに取組む。①フェルラ酸を含む米糠をキノコ培地に添加し,キノコのフェノール酸化酵素によりリグニンにフェルラ酸を結合させ高い生理活性を有するリグニン酸化分解物を生産する。続いて②化学的酸化分解時にアルカリ酸化分解物の再縮合の制御や多価フェノールの選択的グラフティングにより抗酸化活性やタンパク質吸着性の向上を図る。これらによりリグニンの高付加価値化を達成することを目的としている。 本年度の研究実施計画一つ目は、「キノコ培地組成の適性化による生物的リグニンの酸化分解」であった。この中で日本酒の精米残渣を用いる予定であったが、新型コロナ感染症の影響で入手するころができず、担当の学生も9月まで大学に来ることができず、あまり研究を進めることができなかった。その中で、通常の米糠を用い、フェルラ酸量を制御した培地での培養を試みた結果、フェルラ酸添加量が多い場合、成長阻害が少し見られた。研究実施計画二つ目は、「生理活性発現に適した分子設計リグニンの化学的酸化分解」であった。カテコールを導入したリグニンをアルカリ酸化分解した結果、抗酸化活性リグニンポリマーが得られた。また、アセトンを添加したアルカリ酸化銅分解を行った結果、長波長UV吸収リグニンオリゴマーの生成量が促進し、効率生産の可能性が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の研究実施計画一つ目は、「キノコ培地組成の適性化による生物的リグニンの酸化分解」であった。この中で日本酒の精米残渣を用いる予定であったが、新型コロナ感染症の影響で研究協力者八海醸造株式会社と打合せと試料提供を進めることができず、また、担当の学生も9月まで大学に来ることができず、研究を進めることができなかった。10月以降は、コシヒカリ白米の精米時米糠を用い、実験を開始した。まず、米糠中のフェルラ酸量を調べた結果、単体での含有量は少なく、油脂とのエステルまたは配糖体として多く含まれていることが確認された。アルカリ分解後もフェルラ酸関連化合物のすべてが分解されなかったことから、320nmの吸光度によりフェルラ酸関連化合物量を推定した。その結果をもとに、竹粉と米ぬか混合物に試薬のフェルラ酸を用いてフェルラ酸含有量の異なる培地を調製し、シイタケの培養を行った結果、通常の3倍以上のフェルラ酸を添加した培地では、シイタケの菌糸成長が抑制される結果が見られた。今後廃菌床中のリグニンの特性を調べる予定である。 研究実施計画二つ目は、「生理活性発現に適した分子設計リグニンの化学的酸化分解」であった。この中で、相分離系変換法を用いてカテコールを導入したリグノカテールを調製し、そのアルカリ分解とアルカリ酸化銅分解を行った結果、長波長UV吸収能を持つ平均分子量3000程度の分解物がこう収率で得られ、その抗酸化活性を測定した結果、カテキン以上となった。また、アルカリ酸化銅分解による長波長UV吸収化合物の生成機構にアルドール縮合が大きく寄与することから、促進させるためにアセトンを添加した結果、長波長UV吸収化合物の生成が促進され、そして、反応条件を検討した結果、分解後の低温処理により効率化することが確認された。これらにより、リグニン酸化分解による生理活性物質の効率生産の可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は新型コロナ感染症の影響により日本酒製造時の米糠を入手することができず、研究室の学生も9月まで大学に来ることができず、予定の研究が進めることができなかった。次年度は、試料の入手とその性状分析から始め、フラスコレベルのキノコ培養を行い、その結果を踏まえ、研究協力者により、栽培レベルでのキノコ培養を行う。並行して、フェルラ酸添加によるリグニンとのカップリング効果も検証する。 また、アルカリ酸化銅分解におけるアルドール縮合反応の効率化をさらに進める。また、カテコール導入リグニン分解物についても抗酸化活性以外の生理活性やカテコール以外の多価フェノールを用いたリグニン分解物の検討も行い、高生理活性リグニンの開発により高付加価値物質の用途へつなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、購入予定であったマイクロ波処理装置を購入したが、アカデミックキャンペーンによる値下げと昨年度終了予定の研究課題の延長により、本研究課題と同目的のためその予算と合算購入することが可能であったため、本研究課題からの支出を減らすことが可能となり、当初予算と差額が生じた。
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