木質資源を化学的に利用する場合には、木質資源中に混在するさまざまな化学成分の中から、所望の成分のみを分離、精製して利用することが一般的である。この分離プロセスにおいて廃棄されてきた成分の中には、精密な化学構造を有する化学物質も少なくない。本研究では、木質資源に含有されるリグニンと多糖類とが共有結合により結合した物質「リグニン-糖複合体(Lignin-Carbohydrate Complex、以後LCCと略す)」に着目し、慣用されている化学工業製品の代用品となりうる物質の創生を目的としている。 研究1年度では、LCC断片モデル化合物の作成を重点的に行い、数種のLCC断片モデル化合物を得た。 研究2年度では、研究1年度に得たLCC断片モデル化合物を用いた解析によって取得した化学的特徴を指標として、木質資源(木粉)に内在するLCCを評価する方法について検討した。溶剤に溶解した状態ではLCCの分離が困難であったため、固体状態で評価する方法について検討した。その結果、LCCに特徴的と推察できる指標を複数見いだした。 研究3年度では、固体状態で評価した場合に存在が予想される化学構造を推定するための有用な基礎データを取得するために、新たなLCC断片モデル化合物の作成を実施した。着目したLCCと疑われる化合物について、まず固体状態において存在を確認し、その後アルコールで抽出されることを見いだした。このように、当初の目的である両親媒性の構造部位を有する物質の存在証明について、一定の結果を得ることに成功した。研究成果発表に必要となる定量的なデータを得る一歩手前である。定量的な議論を行うため、LCCと疑われる化合物の単離を試みたが、精製過程での変性が顕著であり単離には至らなかった。誘導体化により変性を制御できることを見いだし、現在誘導体化した化合物を用いて検討を継続している。
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