研究課題/領域番号 |
20K06165
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
吉原 浩 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (30210751)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 木材 / 木質材料 / 欠陥 / 変形特性 / 強度特性 / 実験的評価 |
研究実績の概要 |
本研究では,無欠点材料から様々な性状の欠陥が含まれる材料の変形および強度特性を包括的に予測できる木材および木質材料独自の新しい評価法を確立することであり,以下の①から③について明らかにすることを目的としている。① 木材および木質材料の変形および強度特性の評価における従来の力学理論の適用性② 木材および木質材料に様々な大きさ,形状の欠陥が様々な位置に含まれた際の変形および強度特性(異方性や木質材料を構成する材料の影響など)③ 木材および木質材料が,実際の構造物で想定される複合応力状態に置かれた場合の変形および強度特性 このうち当該年度では①および②について検討した。まず①については従来より評価が難しいとされていた木材木口面のせん断強さの測定について検討した。試験体としてスギを使用した。木口面が側面になるように試験体を調整し,その上下に円孔およびスリットを入れて非対称4点曲げ試験を実施し,せん断力に起因する破壊を優先的に発生させることによってせん断強さの測定を試みた。その結果,円孔縁の距離を適切に決定することによってせん断強さの測定の可能性が示唆されたが,同時に円孔縁における応力集中の影響に関する検討がさらに必要であることもわかった。 また,②については円孔を開けたスプルースの試験体のねじり振動試験を実施し,見かけのせん断弾性係数に及ぼす円孔径や円孔の位置の影響について検討した。その結果,円孔径が大きくなり,その位置が試験体の中央に近づくほど見かけのせん断弾性係数の値が低下する傾向が示唆された。こうした傾向は円孔を開けた試験体の見かけのヤング率についても共通しているが,ヤング率に比べてより円孔径が小さい状態でせん断弾性係数が低下する傾向が示されたため,改めて円孔の直径および位置と見かけのせん断弾性係数の関係を表す式を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は木材素材および木質材料のひとつである板紙を使用し,試験体の様々な位置に様々な大きさの円孔を導入して強度および変形特性の変化について検討することを予定していた。その結果,①円孔縁間の距離を適切に設定したスギの試験体を非対称4点曲げ試験することによって木材素材の木口面のせん断強さが可能であることが示唆された。②様々な大きさおよび位置を変えた円孔を導入した試験体のねじり振動試験を実施した。その結果,円孔径および位置と見かけのせん断弾性係数の関係を表す経験式を導出することができた。③上下に円孔とスリットを導入した後にひとつの円孔縁に切り欠きを導入した試験体の非対称4点曲げ試験を行い,木材のモードIIにおける破壊じん性値を測定した。その結果,き裂の前縁部における強変形領域を導入することで適切に破壊じん性値の測定が可能であることがわかった。④板紙のせん断弾性係数を45°傾斜した試験体の単軸引張試験および様々に幅を変えた試験体のねじり振動試験から求めた。その結果,2つの方法で得られた面内せん断弾性係数の値には大きな乖離が存在することがわかった。それに加え,著しく小さな面外せん断弾性係数の影響が面内せん断弾性係数の測定値に大きく影響し,試験体幅が小さくなるほど面内せん断弾性係数の値が低下することが示唆された。また,ねじり振動試験では振動の節に相当する面中央部分に貫通孔を開け,ピンで支持することで試験を実施したが,せん断弾性係数の値にほとんど影響がなく適切にねじり振動試験が実施できることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は上下に円孔およびスリットを施した試験体を非対称4点曲げ試験することで木材の木口面のせん断強さの測定し,円孔縁間の距離を適切に決定することによって木口面のせん断強さの測定の可能性が示唆された。しかし,依然として円孔縁における応力集中がせん断強さの測定にどの程度の影響を与えているかについてはまだ十分な検討が行われていない。また,せん断強さのみならずせん断応力-せん断ひずみ関係などのせん断特性についても十分な検討ができていない。したがって,今後は側面にテーパを切った試験体の非対称4点曲げ試験で木口面のせん断特性についてさらに検討し,円孔縁における応力集中の影響について明らかにすることによって適切に木口面のせん断特性の評価方法の確立を目指す。また,破壊力学特性の評価については依然として鋭い切り欠きを含んだ試験体に限定されており,円孔を含んだ「鈍い切り欠き」が含まれる試験体の「破壊力学特性」については十分な検討ができていない。したがって,今後は鈍い切り欠きが含まれる試験体についても破壊力学の理論が適用可能であるかについて検討を加える予定である。さらに,ここまでの研究では欠陥の形状を円孔あるいは鋭いき裂に限定しているが,今後は欠陥の形状や大きさを様々に変化させ,それらが木材や木質材料の力学特性にどのように影響するかについて検討を加える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) コロナ禍による外出自粛のため,当初計画していた研究打ち合わせおよび成果発表のための出張および大学院生に依頼予定であった試験が実施できなくなったために次年度使用額が発生した。 (使用計画) 今後は木材素材を使用し,欠陥性状(欠陥の鋭さや形状および大きさ)が異なる試験体における強度特性を評価する。鋭利な欠陥が内在する材料の力学特性は破壊力学によって解析されることが多いが,破壊力学の理論が鈍い欠陥に有効であるか否かについて有限要素法ならびに実際の実験によって精査し,破壊力学の理論の有効性について検討する。また,純粋なモードのみならずモードが混合した状態についても検討し,欠陥性状と強度特性の関係について精査する。また,昨年度は円孔およびスリットを施した試験体の非対称4点曲げ試験から木材の木口面のせん断強さの測定を試みたが,円孔の大きさ等の影響について有限要素法や実験によって検討し,さらに円孔を持たないテーパ付き試験体から得られた結果と比較することによって適切にせん断特性が評価できる試験方法の確立を目指す。今後コロナ禍の収束状況に応じて出張および試験依頼が可能となると予想されるため,以上の計画に必要な研究補助依頼および研究打ち合わせや成果発表に伴う旅費として助成金を使用することを計画している。
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