研究課題/領域番号 |
20K06166
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
服部 武文 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 教授 (60212148)
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研究分担者 |
吉住 真理子 徳島県立農林水産総合技術支援センター(試験研究部), 徳島県立農林水産総合技術支援センター(資源環境研究課), 研究員(専門・係長) (40822846)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ケイ皮酸メチル / LC-MS/MS / Tricholoma matsutake |
研究実績の概要 |
ケイ皮酸メチルはマツタケ(Tricholoma matsutake)の主要な香り成分の一つである。主に子実体のヒダ、胞子に含有されていて(Ohta 1983)、子実体形成に伴い、含有量が増加する。さらに、ケイ皮酸メチルは菌食性動物ヒメツチトビムシを忌避するため、シロ菌糸を保護し、マツタケ生活環において重要な働きをしていると示唆される。ケイ皮酸メチルは、L-フェニルアラニンからケイ皮酸を経て生合成される (Hattori et al., 2016)。本研究の目的は、ケイ皮酸→ケイ皮酸メチル過程を触媒する酵素を特定し、同過程を遺伝子レベルで明らかにすることである。 ケイ皮酸→ケイ皮酸メチル過程は、ケイ皮酸を基質とするメチル基転移酵素、あるいは、シンナモイルCoAを基質とするアシル基転移酵素により、進行すると考えられる。植物のバジル(Kapteyn et al., 2007)、褐色腐朽菌マツオオジ(Ohta et al., 1991)では、 メチル基転移酵素が司る。 マツタケにおいてケイ皮酸→ケイ皮酸メチル過程は、酵素活性の検出は未報告であった。2020年度(令和2年度)は、ケイ皮酸→ケイ皮酸メチルを触媒するメチル基転移酵素活性を、ケイ皮酸メチル生合成誘導条件下培養された、マツタケ培養菌糸から調製した粗酵素にて検出した。酵素反応溶液を直接LC-MS/MS機器に注入した場合は、生成物が検出できず、薄層クロマトグラフィーによる精製・濃縮により、加熱失活された粗酵素の48倍のメチル基転移酵素活性が、検出された。安定同位体標識化合物を基質や定量用の内部標準に用いたLC-MS/MS分析による活性検出方法は、粗酵素に共存する非標識のケイ皮酸メチル共存下、微量の酵素活性を検出するために有効な方法であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度(令和2年度)に検討する当初計画は、1.マツタケ菌糸より、ケイ皮酸メチルを生合成酵素活性を検出し、メチル基、あるいは、アシル基転移酵素なのか解明する。2.明らかにされた活性を有する酵素をコードするcDNAを2021年度(令和3年度)クローニングするため、同酵素を精製することであった。1.については、マツタケはケイ皮酸からケイ皮酸メチルを生合成するカルボキシルメチルトランスフェラーゼ活性を有することを明らかにし、当初の計画を達成した。2.については酵素精製によりアミノ酸配列の情報に先立ち、まず、マツタケのゲノム情報を基し、クローニングを行う方法に計画を一部変更した。その理由は以下①、②である。① 酵素活性を検出し、精製を進めるためには、活性を有するマツタケ菌糸を大量に必要とする。検討の結果、菌糸量を増やすことは培養方法を工夫することにより可能となったが、比活性が見合う分だけ増加せず、得られる酵素量を効率的に増やすことは達成できなかった。②目的とする酵素の比活性が低く、反応生成物を抽出、薄層クロマトグラフィーによる精製を経ないと活性を検出できないことが明らかになった。その為、酵素精製の際、目的とする画分を短時間に選抜することが、大いに困難を極めることが予測されたためである。研究代表者らは、既往の研究により、ケイ皮酸メチル生成を誘導した菌糸におけるRNA-seqの結果を有している。その為、2020年度(令和2年度)の結果から、目的とする候補となる遺伝子群は得られているため、計画の変更は一部あったが、概ね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
cDNAクローニングする候補となる遺伝子群から、RNA-seqの遺伝子発現量の結果も加味しながら、なるべく少数の遺伝子を選抜する。これまで研究代表者らは、既に植物のバジルで明らかにされた、ケイ皮酸からケイ皮酸メチルを生合成するカルボキシルメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を基に、相同性を基にした一般的な選抜方法であるBlastにより、何度となく工夫しながら遺伝子の選抜を試みた。しかし、おそらく相同性が低いことにより、候補遺伝子の選抜には至ってない。一方、当該酵素が属する遺伝子ファミリーにおいて、植物の遺伝子間において相同性が高い部位は、いくつか見出されている。そこで、これらの部位における個別の相同性、部位の有無等を加味して、いわばアナログ的に一つ一つの遺伝子を吟味し選抜をする方策である。 得られた遺伝子を発現ベクターに挿入し、まず大腸菌を形質転換し組換えタンパク質を調製する。これらの過程は、研究代表者らが他の担子菌から得た遺伝子から組換えタンパク質を調製した手法と、植物で当該遺伝子がクローニングされた論文を参考にする。粗酵素を用いてS-adenosyl-L-methionine, ケイ皮酸存在下酵素反応を行う。反応後内部標準として[2, 3, 4, 5, 6, 7, 8-2H7]ケイ皮酸メチルを添加し、酢酸エチル抽出した。抽出物をTLC分離し、ケイ皮酸メチルと同じRf値箇所から生成物、内部標準を精製する。得られた、生成物、内部標準を LC-MS/MS分析によるMRM測定で観測された各生成物のイオン量を比較し、活性を検出する。 一方、明らかにされる予定の遺伝子が自然界で発現しているか否かあきらかにするため、当初の予定通りマツタケシロ研究候補地は探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定では、2020年度(令和2年度)は酵素精製まで進める予定であった。しかし、現在までの進捗状況で記載した通り、まず、酵素精製ではなく、マツタケのゲノム情報を基し、クローニングを行う方法に計画を一部変更した。その結果、酵素精製に使用する試薬費用を2020年度(令和2年度)では使わなかった。一方、クローニングする候補cDNAの数は当初予定の一つから増えるため、その費用は2021年度(令和3年度)cDNAクローニングの際当初予定に加えて使用する予定である。
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