研究課題/領域番号 |
20K06167
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
市浦 英明 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (30448394)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオン液体 / セルロース / 紙 / 乾燥紙力強度 / 湿潤紙力強度 |
研究実績の概要 |
本年度は、イオン液体である1-ブチル-3メチルイミダゾリウムクロライド([BMIM]Cl)を用いて処理を行ったパルプを用いて、抄紙を行った。抄紙条件は、イオン液体処理パルプと針葉樹漂白パルプを1:1に混合し、抄紙を行った。そして、乾燥・湿潤紙力におよぼす影響を検討した。また、電子顕微鏡(SEM)による表面観察およびX線回折による結晶構造の分析を行った。 [BMIM]Cl処理パルプのX線回析の試験の結果、粉砕パルプと同様にセルロースI型のピークが観察された。しかし、[BMIM]Cl処理時間が長くなるにつれてセルロースⅠ型のピークが小さくなった。これは、パルプ表面が部分溶解することによって結晶性セルロースI型が非晶セルロースに変化した結果と考えられる。 [BMIM]Cl処理パルプを添加した紙表面のフィルム化がSEM画像により観察された。また、[BMIM]Cl処理時間の増加に伴って、紙がフィルム化した割合が多くなった。この結果は、X線回折の結果と一致した。 未処理の粉砕パルプ添加シートの乾燥強度(2.64 kN/m)および湿潤強度(0.11 kN/m)と比較して、[BMIM]Cl処理パルプ (30分) 添加シートの乾燥・湿潤強度はそれぞれ5.71 kN/mおよび0.50 kN/mであり、処理パルプ添加により乾燥・湿潤強度が増加した。また、処理時間5分の場合の乾燥・湿潤強度は3.95 kN/mおよび0.22 kN/mであるのに対し、処理時間30分の場合は、それぞれ5.71 kN/mおよび0.50 kN/mであった。よって、乾燥・湿潤強度は処理時間が長くなるにつれて増加した。この結果は、[BMIM]Cl処理によってパルプがフィルム化したため、繊維間水素結合が増加したため強度が増加したと考えられる
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、イオン液体で処理したパルプを紙に添加し、乾燥および湿潤紙力強度に与える影響を検討した。 イオン液体で処理したパルプは、一部溶解し、フィルム化が生じた。処理時間を30分以上行うと全て溶解することから、処理時間は30分以内で行うことを明らかにした。また、長い時間処理したパルプを添加した紙は、処理パルプによりフィルム状の部分が多くなる傾向であった。 次に、イオン液体処理パルプを添加した紙の乾燥および湿潤紙力強度を調べた。その結果、パルプの処理時間が長くなるにつれて、そのパルプを添加した紙の乾燥・湿潤紙力強度は強くなる傾向であることを明らかにした。この傾向は、フィルムの状の部分が多くなる傾向と同じであることから、フィルム化したイオン液体処理パルプの効果であると示唆された。 これらの結果、イオン液体処理パルプの製紙薬剤としての可能性が明らかになり、そのメカニズムの解明を行うことができた。このことから、概ね今年度の目標を達成したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、抄紙した紙の排水である白水の水質評価を行う。使用したイオン液体である[BMIM]Clの再利用の検討を行う。排水中のCODを測定し、イオン液体処理パルプを製紙用薬剤として、使用した場合の白水の水質を評価する。 イオン液体処理パルプを洗浄後、イオン液体と水が混合した廃液が生じる。この廃液からイオン液体を回収し、再生イオン液体として再利用を行う。予備試験の結果、再生イオン液体のセルロース溶解能は、含水率が10%以上の場合および加熱履歴がある場合に低下する傾向であった。よって、加熱を最小限にする脱水手法を検討する。具体的には、減圧蒸留により、含水率を10%付近にした後、減圧乾燥法や有機溶媒の脱水に使用されているゼオライトを脱水剤として使用し、含水率を3%以下にする脱水・回収する手法を検討する。そして、イオン液体によるパルプ処理条件と溶解能低下の関係性を解明する。 再生イオン液体で処理したパルプを添加した紙の調製を同様に行う。イオン液体回収条件が、乾燥・湿潤紙力におよぼす影響を明らかにする。回収条件および最適なイオン液体処理条件を確立する。
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