本研究はゴム分解菌として自然界から分離されたシロカイメンタケが加硫ゴムをどのように分解しているかを明らかにすることで、ゴムの再資源化に活用する方法を探ることを目的としている。 研究1年目で当初シロカイメンタケと思われていたゴム分解菌は18srDNAの解析からハカワラタケ(Trichaptum biforme)であることが明らかとなり、研究1年目、2年目では、この菌が加硫ゴムをどのように分解するのか、電子顕微鏡による形態観察やゴム成分の変化を調べ、ハカワラタケによる加硫ゴムの分解には加硫ゴム中の炭酸カルシウムフィラーの脱離が一つ大きな要素になっていることが明らかとなった。この結果からハカワラタケが細胞外に分泌する成分が加硫ゴムと接触することで、加硫ゴムが変化すると予想し、研究3年目ではハカワラタケの細胞外に生産する分泌成分に着目し、この成分の中に加硫ゴムの表面構造の変化や成分の変化を引き起こすものがあるか、検討を行った。 加硫天然ゴムは一般に、不飽和脂質やテルペン類に触れると膨潤し、形状が変化するとともに引張強度が低下することがある。本研究から、菌の代謝溶液にゴムを浸しても直接の変化は確認できなかったが、偶然にもハカワラタケの分泌成分のうち、酵素等を含むタンパク質成分ではなく、分子量10kDa以下のペプチド領域の成分に、テルペン類による加硫ゴムの引張強度の低下を加速させる物質が含まれる可能性が示唆された。その成分をSDS-PAGEにて分画後、単離し、ゲルバンド成分のアミノ酸シークエンスを行って機能の特定を試みたが、既知のデータベース上には特定の機能に該当するものがなかった。本研究で菌から見出された加硫ゴムの軟化を促進する新たな機能は他に類がなく、これが廃ゴムの再資源化に役立つと期待されることから、加硫ゴム表面構造との化学的結相互作用などのメカニズムについて、研究を行っている。
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