研究課題/領域番号 |
20K06171
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
板倉 修司 近畿大学, 農学部, 教授 (60257988)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マイクロRNA / インヒビター / タンパク質変動解析 / イエシロアリゲノム解析 |
研究実績の概要 |
次世代シーケンシングによるイエシロアリの全ゲノム解析ならびに遺伝子予測により見出した12,984遺伝子をDDBJに登録した(accession number BLKM01000001-BLKM01012995)。 有翅虫の特徴である複眼(シロアリの職蟻やニンフには複眼は存在せず、翅蟻への形態変化が起こる過程で複眼が形成される)や翅の形成、幼形生殖虫の特徴である体表の着色ならびにキチン合成への関与が予測される3種類のマイクロRNA(miR-7-5p、miR-8-3p、miR-12-5p)の前駆体に対するインヒビターをイエシロアリの職蟻とニンフならびにヤマトシロアリの職蟻に注入した。二次元電気泳動とMALDI-TOF/MSを用いて、マイクロRNA前駆体インヒビターの注入によるマイクロRNA発現の抑制により、発現量が増加するタンパク質を同定した。さらに、RNA-Seqにより得られたデータを用いて、イエシロアリ予測遺伝子データに対するmRNA変動解析を実施し、マイクロRNA前駆体インヒビターの注入によって実際に増減するmRNAの種類と増減率を解析した。 ヤマトシロアリ職蟻へのインヒビターの注入で発現量が増加したタンパク質の中で、Mascot検索でscore 50以上の結果が得られたものには、helix-turn-helix transcriptional regulator、WD repeat-containing protein 64、50S ribosomal protein L27、DUF721 domain-containing protein、MarR family transcriptional regulatorなどがあり、転写制御因子、情報伝達因子、リボソームサブユニット、RNA結合タンパク質が、miR-7、miR-8、miR-12により制御されている可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で記述したように、ヤマトシロアリ職擬へのmiR-7、miR-8、miR-12前駆体インヒビターの注入によって、転写制御因子、情報伝達因子、リボソームサブユニット、RNA結合タンパク質と推定されるタンパク質の転写量が増加することが示された。同様の実験をイエシロアリのニンフに対しても行い、二次元電気泳動でのタンパク質転写量の変化まで追跡したので、今後はMALDI-TOF/MSによる転写量増加タンパク質の同定を行う予定である。イエシロアリの職擬とニンフへのマイクロRNA前駆体インヒビター注入によるmRNA発現量の変化をRNA-Seqにより検討したところ、ニンフではmiR-12前駆体インヒビターの注入によってキチン合成と卵黄形成に関わるmRNAの発現量が増加することが明らかとなったが、職蟻におけるRNA-Seqデータ解析が進んでいない。また、ヤマトシロアリでは、昨シーズンは採集できるニンフの数が限られていたため、十分な繰返し実験数が確保できず、ニンフへのマイクロRNA前駆体インヒビターの注入が進まなかった。例年であれば、秋ごろになるとニンフ階級が出現するが、昨シーズンはほとんどニンフが出現しなかった。この原因は明らかになっていないが、今シーズンは夏までにできるだけ多くのヤマトシロアリコロニーを採集し、ニンフを採集できるコロニーの数を増やし、インヒビター注入実験を行えるよう改善する。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」および「現在までの進捗状況」で記述したように、イエシロアリ職蟻ではマイクロRNA前駆体インヒビター注入とRNA-Seqデータの取得まで進行しているがRNA-Seqデータ解析が遅延しているため、早急にデータ解析を進める。また、イエシロアリの職蟻へのマイクロRNA前駆体のインヒビターの注入によるマイクロRNA抑制によって発現量が増加するタンパク質の二次元電気泳動とMALDI-TOF-MSを用いた同定、さらに、ヤマトシロアリのニンフへのマイクロRNA前駆体インヒビター注入とRNA-Seq解析ならびに二次元電気泳動とMALDI-TOF-/MSによる転写量増加タンパク質の同定を推進する。これまでの解析結果とあわせ、イエシロアリとヤマトシロアリの職蟻およびニンフから幼形生殖虫あるいは有翅虫への形態変化の際に、シロアリ細胞内で働くマイクロRNAと当該マイクロRNAの制御対象となる遺伝子を明らかにする予定である。これらの解析が完了した後に、マイクロRNA前駆体に対するインヒビターRNAを大量に産生させる大腸菌発現系を構築する準備として、インヒビター配列をもつ2本鎖RNAの合成とL4440プラスミドとのライゲーション、、得られたプラスミドによるHT115(DE3)大腸菌の形質転換とインヒビター配列含有2本鎖RNAの大量生産を行う予定である。
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