シロアリ職蟻が補充生殖虫に分化する際,幼若ホルモン(JH:Juvenile hormone)が下限閾値を一定期間下回っていることが必要である。シロアリが分類されるゴキブリ目の昆虫では,フェルネセン酸がJHAMT(Juvenile hormone acid methyltransferase)によりメチル化された後にエポキシダーゼCYP15A1(cytochrome P450,methyl farnesoate epoxidase)により幼若ホルモンであるJH Ⅲが合成される。本年度はイエシロアリ職蟻とヤマトシロアリ職蟻にmicroRNA(miR-7,miR-8,miR-12)のmimic(成熟microRNAを模倣した二本鎖RNA分子で,標的mRNAの翻訳を抑制する)をマイクロインジェクターで注入し,上述したJHAMT,CYP15A1をはじめ幼若ホルモンエポキシヒドロラーゼ(JHEH),幼若ホルモンエステラーゼ(JHE),幼若ホルモン結合タンパク質(JHBP)など幼若ホルモンの分解や運搬に関わるタンパク質をコードする遺伝子のmRNA量を定量PCRで測定した。その結果,ヤマトシロアリ職蟻では,miR-7,miR-8,miR-12のmimic注入後,5~7日経過後にJHAMTとCYP15A1のmRNA量の低下が認められ,特にmiR-7 mimicを注入した職蟻では7日経過後のJHAMTとCYP15A1のmRNA発現量がほぼゼロになった。同様の現象がJHEやJHBPでも観察されたが,JHEHは注入1~2日後に発現量がほぼゼロまで低下した後7日後には発現量が数倍まで急増した。イエシロアリ職蟻では,miR-7,miR-8,miR-12のmimic注入7日後にJHAMTとCYP15A1のmRNA量の低下が認められ,JHEとJHBPの中にも注入7日後に発現量が低下する遺伝子が見られた。
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