研究課題/領域番号 |
20K06172
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
下川 知子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60353728)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アカマツ針葉 / ヘミセルロース / 増粘多糖類 / 耐凍性 |
研究実績の概要 |
飲料として市販されているアカマツ針葉の乾燥粉末から調製したヘミセルロース(AHC)粗画分を、冷水に対する水溶性画分と水不溶性画分に分離した。試薬として販売されているBirch由来のキシランから調製した水溶性キシランとAHC水溶性画分のゲル化状態(10wt%)を比較すると、AHC水溶性画分の方がゲルになりやすく、凍結した後でもその形が崩れにくい傾向が認められた。AHCの粘性やゲルの性質についてさらに明らかにするため、まず、2wt%での溶液もしくは懸濁液を作製して、その粘度を比較した。AHC粗画分は、AHC水可溶性画分やBirch水溶性キシラン、アラビアガムよりも常温および4℃の冷却状態で高い粘性を示したが、同じ濃度のカルボキシメチルセルロース(低粘度品)やセルロースナノファイバー(酵素・湿式解砕スギ)は常温でAHCの5~7倍の粘度を示すため、AHCは低粘度の多糖類に相当すると思われた。また、セルロースナノファイバーは凍結処理により全体構造が変化し、凍結融解後に分散状態を保てなかったが、AHCの粘性が極端に低下することは無く、凍結による構造変化の影響は低いと考えられた。次に、ゲルのかたさを調べるため5wt%の試料を調製し、テクスチャー測定によってかたさ応力を測定した。AHC粗画分は、10℃の冷却でゲルの硬さ上昇が示された。次年度以降、低温で食する食品への添加による物性変化を検討することとし、安全性を担保するための基本的な毒性試験の実施を早期に行うこととした。そのため、AHC粗画分への微生物を用いる変異原性試験を実施し、遺伝子突然変異誘発性の陰性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アカマツ針葉から得られるヘミセルロースより作成したゲルの硬さを調べるため、消費者庁「えん下困難者用食品の規格」に沿ったテクスチャー測定によってかたさ応力の測定を行った。10℃の冷却でゲルの硬さ上昇を確認したことから、食品に添加する増粘多糖類としての性質を検討していくことで新たな知見が得られると考えるが、将来的な食品利用を検討するためには基本的な毒性試験を早期に実施し、安全性を担保することが重要と判断した。そのため、安全性の確認試験の実施時期を早め、今年度に評価を実施した。低温に対する詳細な影響評価等が次年度以降となったが研究全体の進捗に問題はない。
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今後の研究の推進方策 |
予定していたアカマツ針葉ヘミセルロースとその他素材より調製された複合化物の、低温に対する影響評価を中心に研究を進める。アカマツ針葉ヘミセルロースを市販の寒天素材や餡等、少なくとも2素材と混合し、常温や低温条件下での物性変化を測定し、影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
安全性を担保した上でその他食品素材との複合化を実施する研究の流れとしたため、当初の研究実施計画においては最終年度に予定していた基本的な安全性試験を1年目に実施した。そのため、予定していた試薬等消耗品の一部について、次年度以降に購入する等、予定の微細な変更を行った。また、糖類を分析するクロマトグラフシステムが、研究途上で研究担当者では実施の困難なメンテナンスが必要となり、分析に支障を来した。そのため、この糖類分析システムを利用した解析の一部を次年度以降に実施する等の計画の微細な変更を行った。以上の微細な変更により、7万円程度を繰り越すこととなった。次年度は、アカマツヘミセルロースの調製、性質評価、アカマツヘミセルロースを添加した複合ゲルの物性評価に関係する消耗品の購入を予定している。
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