研究実績の概要 |
本研究課題は針葉樹の内樹皮および外樹皮に含まれるリグニンの化学的特徴を木部リグニンとの比較により明らかにすることを目的としている。昨年度までに、ニトロベンゼン酸化法による分解生成物の収率から求めた非縮合型/β-5型/ビフェニル型生成物の量比(モル比)は、スギの木部、内樹皮および外樹皮の試料間でほとんど差が見られないことが示された。また、内樹皮Bjorkmanリグニンの1H,13C-二次元NMR(HSQC)スペクトルには、木部Bjorkmanリグニンと同様にβ-O-4、フェニルクマラン(β-5)、レジノール(β-β)、およびジベンゾジオキソシン(β-O-4/5-5)型の部分構造に帰属されるピークが観測され、その際、両者のスペクトルには顕著な差異が見られなかった。 本年度(R5年度)、内樹皮の単離リグニン(Bjorkman lignin)試料について各種二次元NMR測定を行ったところ、良好なHMBCおよびHSQC-TOCSYスペクトルが得られ、これにより、R4年度に実施したHSQCスペクトル上のシグナルの帰属の確からしさが向上した。また、辺材と内樹皮の二つの単離リグニンの1H-NMRスペクトルについて、メトキシ基のシグナル強度を基準に比較すると、両者のスペクトルはほぼ重なり合い、相違点としては、高磁場領域に木部リグニンにはないピークが内樹皮リグニンに若干見られるのみであった。以上より、スギの内樹皮リグニンの部分構造は、木部のそれと似ていると強く示唆された。本研究を通して、両者のリグニンに関する顕著な相違はリグニンの含量のみであり、その際、抽出処理済み内樹皮のKlasonリグニン量は21%と、辺材のそれに比べ4割減の低い値を示した。
|