2023年度においては、前年度から引き続き、岩手県大槌湾を中心とした三陸沿岸域において、ヒトデ類、タコ類およびカモメ類によるエゾアワビ捕食の実態について継続的な野外調査および飼育実験を実施した。 ヒトデ類による捕食については毎月の潜水調査により、ヒトデ類3種(エゾヒトデ、タコヒトデ、イトマキヒトデ)を対象としてその餌生物の種組成の長期的なデータを蓄積している。3種のうち、餌生物における巻貝類の割合が最も多く、2023年度に実施した飼育実験によってエゾアワビ当歳貝の捕食を確認したエゾヒトデにおいても、餌生物におけるエゾアワビ稚貝の個体数の割合は1%未満であった。他の2種のヒトデ類も野外における数百サンプルの観察事例においてエゾアワビの捕食は確認されず、三陸沿岸域においてヒトデ類はエゾアワビの食害生物としての重要性は従来想定されていたものよりかなり低いことが推測された。 大槌湾内複数の調査点において、エゾアワビ死殻の継続的な採集を行っており、死殻に残る捕食痕跡の分析から、マダコによる被食死亡が減耗要因として重要であることが本研究により明らかとなっている。2022年には同年春季の親潮接岸により、斃死したマダコが多数確認され、マダコによるエゾアワビへの食害は過去数年に比べて明らかに少なかった一方、2023年度の調査では8月から12月にかけて例年よりも海水温が高く、マダコによって捕食された多数の死殻が採集された。 カモメ類によるエゾアワビの捕食についても継続的な定点調査を実施し、その季節的・経年的な変動について長期的なデータを蓄積した。設置型カメラや双眼鏡等を用いた観察により、カモメ類が浅所のエゾアワビを捕食する行動について調査を行った。
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