我々は以下の提案に基づき研究を進めた。 ①資源動態モデルの不確実性、種間関係や環境変動を考慮した代替モデルでも成り立つような各魚種のABC決定規則を提案する。②単一魚種でなく、代替魚種の資源状態も考慮した複数魚種のABCを一括して決定する規則を提案する。③各漁業種の中長期的な経営戦略に関係者が納得できる資源管理の政策決定システムの提案を目指す。 ①について、Watanabeら(2023)では入力(漁獲努力)規制と出力規制(漁獲量管理)を組み合わせることで、入力規制における漁獲率の実行誤差を考慮しても、レジームシフト(加入率の十年変化)、資源量と漁獲係数の推定誤差に頑健な管理方策となることを、実際のマイワシ太平洋系群の1970年代から近年までの数値実験により確かめた。 ②と③について、Matsuda & Watanabe(2024)では、水産資源管理、野生動物管理、新興感染症対策、総合的害虫防除における数理モデル、順応的管理、費用効果分析、人材育成などの取り組みを比較し、共通点と相違点を検討した。その結果、資源評価から方針決定までの時間差が2年ある水産資源管理は、野生動物管理など他の分野に比べて時間差が大きく、対策が後手に回る恐れがあることが示唆された。この論文はMatsuda&Watanabeがゲストエディターとして企画した特集の一部である。 期間全体を通じて、不確実性の高い漁業における資源評価、資源管理、種間相互作用や環境応答を考慮した頑健な資源管理手法の開発にいくつかの成果を上げることができた。こらの成果は、水産学会大会の講演(2022年3月115)、個体群生態学会企画セッション(2022年10月)、東京大学PEAK講義「環境リスク学」(2022年12月)、主婦連講演会「漁業の今と未来を考える」(2023年7月7日)などで紹介した。
|