研究課題
アレキサンドリウム・タマレンセ(現在名はアレキサンドリウム・カテネラであるが、ここでは旧名のまま使用する)は麻痺性貝毒を産生する有毒渦鞭毛藻であり、国内外において広く二枚貝類の毒化を引き起こす極めて危険な生物である。本種はその生活史の一時期に海底上で生残するステージであるシストを形成するので、プランクトンとして遊泳している栄養細胞個体群の形成機構を解明するためには初期細胞群発生のタネとなるシストの発芽動態について把握することが必須である。本研究では、これまでも本種が度々発生している伊勢湾を研究対象海域として、本研究代表者が以前開発した現場でのシスト発芽細胞を直接捕らえることができる器具(Plankton Emergence Trap/chamber:PETチャンバー)を用いて、本種シストの現場海底からの発芽量を実測し、また栄養細胞群集の季節消長を追跡することで、その個体群形成機構を解明することを目的としている。調査は三重県松阪港内(伊勢湾の西側沿岸に位置する)に停泊中の三重大学大学院生物資源学研究科附属練習船・勢水丸をプラットフォームとして利用し、そのデッキ上で2020年2月より2021年7月までの1年6ヶ月にわたり、毎月一回行った。PETチャンバーにより得られたサンプルと採水によって得られた海水サンプルを顕微鏡で観察した結果、現在までに現場海底上における本種シストの発芽と水柱中における栄養細胞の出現状況の概要を明らかにすることができている。また、伊勢湾の湾央で得られた海底泥を用いて本種シストの発芽に及ぼす水温の影響についても明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
現場ではおおむね天候に恵まれ、ほぼ予定通りの調査を実施することができた。また、サンプルの処理や培養実験も比較的順調に進んでいる。これまでのところ、本研究の遂行において大きな支障は発生していない。
すでに得られたPETチャンバーサンプル中の発芽細胞と海水サンプル中の栄養細胞の観察・計数を進める。さらに、培養実験により、アレキサンドリウム・タマレンセの栄養細胞の増殖に及ぼす水温と塩分の影響についても調べる。これらにより、本種栄養細胞の出現を、現場における本種のシストの発芽と海洋環境要因との関係から詳細に明らかにしていく予定である。
昨年度購入した消耗品の余剰分があったため、今年度は一部について新たに購入する必要がなくなった。また、コロナ禍で学会等がオンライン開催になったことから現地へ赴くための旅費を使用しなかった。これらのことが未使用額が発生した主な理由である。未使用額については次年度に行う顕微鏡観察と培養実験に使用する消耗品の購入に充てる予定である。
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Science of the Total Environment
巻: 791 ページ: 148026
10.1016/j.scitotenv.2021.148026