水産有用魚介類はしばしば生態系の高次捕食者に位置付けられ、その餌料生物の把握は資源保護の観点で重要である。また、稚仔期の摂餌生態が未解明であるために養殖技術の開発が進展しない種にとっては、天然環境での食性が養殖用餌料/飼料の開発を支える基礎的な知見となる。本研究は、DNAメタバーコーディング法と安定同位体比測定を組み合わせることで、水産有用甲殻類であるウチワエビ類をモデルとして、天然での食性を高解像度で理解することを目的としている。 ウチワエビ類が利用する天然餌料を把握するために、漁獲直後のエビから放出された糞粒を採取し、COI遺伝子領域をマーカーとするDNAメタバーコーディング法を用いて、試料内に認められる餌料生物を可能な限り下位の分類群まで同定した。全40個体のウチワエビからバーコーディングの結果を得、複数種の魚類、エビ類、イカ類等が検出された。魚類については、カレイ目魚類が複数回検出されたほか、遊泳性の魚類も認められた。ウチワエビは動きが遅く、海底を匍匐して生活するため、生きた状態のこれらの動物を襲撃するというよりは、海底に沈んだ斃死個体を見つけて捕食しているのだと考えられる。また、複数個体のウチワエビの糞粒からイソギンチャクの一種やクラゲの一種が検出された。さらに、1個体のウチワエビに由来する糞から上記の動物が複数混在する場合も少なくなく、遭遇した餌を機会に利用していると推察できる。
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