腹足綱収眼目アワモチ科貝類のドロアワモチは内湾の干潟の一部に生息し、干潮時には干潟を匍匐、表面のデトリタス等を摂食し、満潮時には砂泥中に潜り込むとされる。本種は環境省または各自治体のレッドデータブック等に絶滅危惧種として記載されている。絶滅危惧種の保全において、保全対象種についての基礎的情報となる生息環境および生態の把握が重要であるが、ドロアワモチについては生息適地の環境や生態に関する研究は行われていない。また、愛媛県ではドロアワモチと同所的に生息するジャコテンアワモチが識別され、九州北部には大型のヤベガワモチの生息も知られているが、申請者らによる遺伝的解析により、これらドロアワモチ属3種が同種である可能性が示唆されている(高木ら 2019)。本研究では、ドロアワモチ生息地における環境調査、生態・飼育観察および形態学的・遺傳伝学的解析を行い、ドロアワモチの生態および生息適地の環境条件について明らかにするとともに種の確定にむけた作業を行う。 本年度はドロアワモチの飼育繁殖を試み、御荘湾のドロアワモチの保全対策を行うことを目的とした。水槽内に水域と陸域を設け、1/2海水で6個体の飼育を行ったところ、3か月後にドロアワモチの卵塊を確認した。卵塊は麺状の白または薄黄色を呈し、長さは約30cmであった。卵の大きさは約160μmであり、卵塊中の卵数は約7800個度であると推定された。ベリジャー幼生として10月6日より孵化し、10月26日まで繊毛を使って活発的に泳ぐベリジャー幼生がみられた。以上のことからドロアワモチの繁殖の可能性が示された。
|