研究課題/領域番号 |
20K06185
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松下 吉樹 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (30372072)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 底びき網漁業 / Trawl footprint / 漁業の環境への影響 / かけまわし漁法 |
研究実績の概要 |
底びき網漁業が影響する海底の範囲は「Trawl footprint」と呼ばれ,この範囲内の海底は漁具の通過によって掘り起こされたり凹凸が均され,そこに生息する生物や植物は影響を受けることとなる。Trawl footprintは漁業の海底生態系への悪影響を検討する上での重要なエビデンスであるが,開口装置を用いずに海底上で漁具を動かす漁法,「かけまわし」や「ごち網(日本では底びき網に分類されない)」は,漁具の形状と動きが刻一刻と変化するため,推定が難しい。本研究は,種々の水中計測技術を組み合わせて,かけまわし漁具やごち網漁具が海底を掃過する範囲と海底地形の変化を明らかにする。そして種々のかけまわし漁業とごち網漁業のTrawl footprintを推定できるように,この結果を用いてかけまわし漁具とごち網漁具の運動モデルを考案することを目指している。 R2年度は小型漁船によるかけまわし式操業を対象に調査を行った。かけまわし式底曳網はヘッドロープ長24 m,曳綱の片舷の長さは712 m,網側の約400 mは種々のチェーンが20 mごとに連結された構成であった。漁船にGPSロガーを設置して船の速力と航跡を,両舷の曳綱の最も重いチェーンの部分(肘と呼ぶ)にそれぞれ音響トランスポンダロガーを取り付けて両肘の間の距離を,網上部には速度ロガーを取り付けて網の進む速力を計測した。 漁具を順次投入し曳網を開始する時に,船と網は456~590 m離れていた。この時の両肘の開きは251~341 mで,曳網開始から14.7~20.3分後には5~8 mにまで狭くなり,巻き上げが開始された。この漁業のTrawl footprintは148,000~229,000 m2で,近い海域で長さ12 mのビームを用いる底びき網漁業の掃過面積の推定値の3.3~3.8倍の数値であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はコロナ禍で出張が制限される中,タイミングよく現地調査を実施することができた。そして本研究で提案した計測方法が現場で実施できること,計測結果から想定通りに漁具の挙動を計測できることを確認した。この計測データを用いて,漁具の形状とTrawl footprintを推定する方法を検討し,妥当と結論した。このように調査方法を確立できた。 R2年度の調査で得たデータの解析により,国内学会と国際学会で1報ずつ口頭発表を行うことができた。また,国際ジャーナルへの投稿原稿も準備中である。 以上,順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
調査方法を確立することができた。今後は出張ができるようであれば計画通りに他の底びき網漁業において同様の計測を行い,漁具や海域,操業方法の違いによる漁具の挙動とTrawl footprintの変化に関するデータを増やしていきたい。また,より精度の高い測定結果を得るために,漁具の対水速力を測定するためのマイクロデータロガーの使用数を増加させる。そして計画通りに漁具が通過した海底の音響測器による観察も予定する。
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