研究課題
2015年以降、冬季から春季に北部薩南海域ではカタクチイワシの仔魚が最も優占して出現していた。一方、2016年まではマアジが多く出現していたが、2017年以降、マアジに比べてサバ属が圧倒的に多く出現していることが分かった。いずれの種においても、湧昇現象のみられる鹿児島湾の湾口部で特に出現数は多かった。これまで本海域は ゴマサバの主要な産卵場であることが知られていたが、制限酵素断片長多型法により仔魚を種査定した結果、マサバ仔魚が圧倒的に優占して出現していることが分かった。今回得られた成果は、本海域において魚種交替、すなわち近年みとめられているマサバの資源量増加の兆候をとらえたものと考えられる。これまで北部薩南海域は資源高水準期にマイワシの主産卵場となることが知られていたが、マサバでも同様の現象がみられることが明らかとなった。冬季に本海域において多く出現する魚類7分類群(マアジ、マサバ、カタクチイワシ、カサゴ属の複数種、ホウボウ科の複数種、ヨコエソ、アラハダカ)の仔魚を対象とし、消化管内容物の検鏡、DNAメタバーコーディング解析、炭素・窒素安定同位体比分析の3手法を用いて食性解析を実施した。その結果、マアジ、カタクチイワシ、ホウボウ科の複数種ではカイアシ類、マサバ、カサゴ属の複数種、中深層性種であるヨコエソとアラハダカではカイアシ類に加え、高い割合で尾虫類を摂餌していることが明らかとなった。本海域の低次食物網において、尾虫類を介した微生物食物網が重要な役割を果たしており、分類群間で餌生物に対する競合を緩和し、多くの種の共存を可能にしている可能性が示唆された。餌密度、水温と成長との関係について調査した結果、マサバ仔魚では水温との間にのみ成長に正の相関がみとめられた。これは本海域においてマサバ仔魚の餌は十分に存在しており、水温が成長の制限要因となっていることを示している。
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