研究課題/領域番号 |
20K06188
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
片岡 剛文 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (10533482)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細菌捕食性原生生物 / 比増殖速度 / 至適増殖温度 / 好気培養 / 日向湖 |
研究実績の概要 |
微生物ループを介した有機物輸送過程を再評価するために、環境中から細菌捕食性原生生物(BVP)と細菌を単離し、細菌捕食による原生生物への有機物輸送を定量的に再評価することが本研究の目的である。2021年度は、2020年度に取得した49株のBVPの内11株の18S rRNA遺伝子配列を決定してデータベースへ登録した。また、増殖と摂餌に関する生理生態学的実験を実施するとともに、餌細菌と原生生物の二者培養系の作成を試みた。サイズが異なる4株のBVPを選出し、4つの温度下で比増殖速度計測し、世代時間、至適増殖温度ならびに温度変化に対する増殖速度の変化を表す係数(Q10)を比較した。さらに、各株の至適増殖温度下で、直径0.5マイクロメートルの蛍光ビーズの捕食速度を計測した。いずれの株も、20度から30度を至適増殖温度としており中温域を好んだが、最大比増殖速度は株間で異なった。世代時間に換算して比較すると、S35YE株(Neobodo sp.)、HJn10BC19株(Euglenida sp.)とH35YCS株(Vannella sp.)は1分裂に2日程度を要したが、HICY8株(Bicosoecida sp.)の世代時間は0.19±0.02 dayと圧倒的に速かった。Q10は、S35YE株は酵素反応が示す値である2と近いが、その他の株は大きく逸脱しており温度変化に応答する何らかの機構を有すると考えられた。蛍光ビーズの捕食速度は、S35YE株、HICY8株、HJn10BC19株、H35YCS株の順に高く、増殖速度とは関係がなかった。一方で、細胞サイズの増加に伴い、捕食速度が低くなる傾向であった。新規の系統を含むBVPの増殖速度を求め、多様な増殖生理を実証した点は、原生生物による有機物輸送速度を見積もる上で有用であり意義が大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、環境中から単離培養したBVPの単離株を用いて、複数の細菌種を餌とした場合の増殖速度、至適増殖温度と蛍光ビーズを餌粒子とした捕食速度を計測し、増殖生理を定量的に評価することができた。至適増殖温度は、今後の培養実験を計画する上で重要な値である。研究遂行に必要な基礎的なデータが得られた点で意義が大きい。 一方で、餌細菌と原生生物の二者培養系は依然として作成段階である。これは、細菌捕食性原生生物の培養液中には複数種の細菌が原生生物よりも高い細胞密度で含まれており、原生生物細胞のみを選出するのが極めて困難であることに起因する。セルソーターを用いて両者の分離を試みたが、細胞サイズが原生生物と比べて10分の1程度の細菌細胞が100倍程度存在する培養液中から原生生物細胞のみを選抜するのは困難であり、セルソーターのみでは原生生物細胞を分離することは不可能であった。そこで、予め、原生生物と細菌の共培養中の細菌を減らすことで、セルソーターによる原生生物細胞選抜の精度を向上させる工夫が必要であると考えた。そこで、具体的には、遠心分離法、濾過法、密度勾配遠心分離法を用いることで、どの程度、原生生物と細菌を分離することができるかを比較した。その結果、遠心分離では細菌をほとんど濃縮することなく原生生物のみを濃縮することができ、原生生物に対する細菌細胞の比(BP比)を約7倍改善することができた。また、濾過法では原生生物の細胞を捕集し、細菌が通過する孔径を選択すればBP比を約10倍改善することができた。さらに、iodixanolを密度媒体とした密度勾配遠心分離法ではBP比を10~100倍改善することに成功した。しかし、いずれの方法を用いても、細菌細胞の完全な除去には至っていない。二者培養系の構築が条件検討の段階である点で、概ねに進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、これまでに確立した原生生物の単離株の18S rRNA遺伝子塩基配列を決定し公共データベースに登録する。また、新規の系統については種同定を継続する。2022年度は主に、二者培養系の構築を実施し、増殖速度と餌細菌の形態(サイズ等)や化学成分との関係を明らかにする。 二者培養系の構築は、まず、2021年度に実施した予備実験で検討した手法を組み合わせて、原生生物の培養中に共存する餌細菌をできる限り取り除く。その後、細胞密度を計測し、原生生物が餌細菌と比べて多くなった培養を選出して、新しい培地を使って連続的に希釈して原生生物のみが含まれる培養を作成する(限界希釈法)。限界希釈法で使用する培地には、原生生物の餌として、単一の細菌株もしくは高い濃度の有機物が含まれるものを使用する。原生生物が増殖した培養でもっとも希釈率が高い培養液中の細菌の形態を観察し、単一の形態が確認されたものはゲノムDNAを抽出後、細菌の分類指標遺伝子である16S rRNA遺伝子配列を解読することで、餌細菌が単一種で構成されることを確認する。確立した二者培養は継代培養し、細胞サイズ、比増殖速度と細菌摂食速度を計測することで細菌捕食性原生生物による細菌捕食速度を計測する。これらの値を2021年度で得られた値と比較することで、餌細菌の違いが原生生物の増殖に与える影響を考察する。可能であれば、複数種の二者培養系を作成して比較することで、原生生物の餌細菌種に対する餌選好性に関する知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、分子生物学実験のためのDNAポリメラーゼをはじめとする高額消耗品の購入が予定されていた。2021年度は18S rRNA遺伝子配列の決定を継続したが、これまでに研究室で所持していたものを使用したために新規に購入しなかったので未使用額が生じた。しかし、2021年度の実験でようやく研究室で所持している試薬を使い切ったので、2022年度に補充のため購入する予定である。
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