研究課題/領域番号 |
20K06188
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
片岡 剛文 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (10533482)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 細菌捕食性原生生物 / 二者培養 / 餌細菌 / 増殖生理 |
研究実績の概要 |
微生物ループを介した有機物輸送過程を再評価するために、環境中から細菌捕食性原生生物(BVP)と細菌を単離し、細菌捕食による原生生物への有機物輸送を定量的に再評価することが本研究の目的である。2023年度は、これまでに単離に成功し、多種多様な細菌種と共に維持培養(共培養)されているBVP株のうち3種(Euglenida sp. HJn10BC19株、Bicosoeca sp. HJn10c2株、Bicosoeca sp. HJn10c15株)について単一の細菌種を餌とする培養(二者培養)の作成を試みた。二者培養の作成には2022年度に用いた密度勾配遠心分離法と限界希釈法を組み合わせた手法を適用したが、密度勾配遠心分離処理後の原生生物の生存率が著しく低下するために、増殖可能な原生生物細胞数が細菌数を上回る分画を得ることができなかった。そこで、まず、濾過により細菌細胞と原生生物細胞を分離し、次に、顕微鏡下で無菌的に原生生物細胞を分取し単一の細菌株を含む培養へ移すことで二者培養の作成を試みた。原生生物が良好に増殖した培養液中のゲノムDNAを抽出し、細菌の分類指標となる16S rRNA遺伝子の細菌に共通な領域の塩基配列を調べたところ、HJn10BC19株、HJn10c2株、HJn10c15株の3種について、細菌株(Pseudoalteromonas sp. WB1株)の塩基配列のみが検出され、二者培養の作成に成功した。また、前年度に引き続き、これらの原生生物の分類指標となる18S rRNA遺伝子配列を公共のデータベースに登録するために分析を継続したが、PCR法とクローニング法を組み合わせた手法では、18S rRNA遺伝子の全長を得るには至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度の方針を継続し、原生生物株と細菌株との二者培養を作成して増殖特性の定量を試みた。これまでの手法で、HJn10c19株と細菌WB1株の二者培養の作成を試みたところ、16S rRNA遺伝子配列は単一であったがWB1株とは異るVibrio sp.を含む二者培養であった。本二者培養の異なる温度下での比増殖速度を計測したところ、15℃で最小値、23℃で最大値であった。25℃(1.493±0.223 day-1)では、23℃と比べて低い値ではあったが有意差は認められなかったため至適増殖温度は20℃から27℃の間である。一方で、多様な細菌を含む場合の比増殖速度は、15℃と20℃では二者培養と違いはなかったが、25℃では0.960±0.158 day-1と低い値であった。細菌捕食性原生生物の比増殖速度は餌細菌種によって異なることが示唆されたが、その原因は不明であり今後の課題である。また、密度勾配遠心分離法と限界希釈法による二者培養化では、意図しない細菌が混入する可能性が新たな課題として挙げられた。 これらの欠点を改善するために、増殖可能な原生生物の細胞を分取することに注力して二者培養化を試みた。すなわち、まず、濾過により細菌細胞と原生生物細胞を分離し、次に、顕微鏡下で無菌的に原生生物細胞を分取し単一の細菌株を含む培養へ移すことで二者培養化を試みた。原生生物が良好に増殖した培養液中の16S rRNA遺伝子の塩基配列を調べたところ、HJn10BC19株、HJn10c2株、HJn10c15株の3種について、添加した細菌WB1株の塩基配列のみが検出され、二者培養の作成に成功した。 二者培養確立法の開発に労力を要したために、当初の予定であった原生生物株の摂餌生理に関する定量的な知見を得るには至らなかったため、やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、これまでに確立した原生生物の単離株の18S rRNA遺伝子塩基配列を決定し新規の系統については公共データベースに登録する。 2024年度は、主に原生生物の摂餌に関する定量的データを収集する。つまり、2022年度から2023年度にかけて得られた原生生物4株の細菌WB1株との二者培養において、異なる温度下での増殖速度試験を実施する。加えて本共培養についてWB株の細菌密度の1/10程度となるように直径が0.5 micro mの蛍光ポリスチレンビーズを添加して一定時間培養することで、WB1株が十分に増殖した状態での餌粒子の捕食速度を計測する。その後、直ちに細胞を回収・固定し蛍光顕微鏡下で細胞内のビーズを計測することでビーズ捕食速度および細菌摂食速度を計測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた謝金等のうち、人件費は2022年度から実施している学術変革A事業でまかなわれた。また、物品費のうち主要な分子生物学的研究手法用試薬とプラスチック消耗品については、研究室内で補充したために本科研費での使用が抑えられた。2024年度はこれらの資金で学生アルバイトを増員して研究推進に充てる計画である。
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