研究課題/領域番号 |
20K06192
|
研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
伊藤 元裕 東洋大学, 生命科学部, 准教授 (80612332)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 海鳥 / ウミネコ / ウトウ / マイクロネクトン / 中深層生魚類 / レジームシフト / カタクチイワシ / GPS |
研究実績の概要 |
ウミネコは、極東地域に分布し、日本国内で最も多く生息するカモメ科の海鳥である。その広範な食性と旺盛な捕食活動から河川や沿岸生態系に多大な影響を及ぼす重要な高次捕食者であると考えられている。本研究では、世界でも極めて稀な例として、沿岸性のウミネコにおいて中深層性魚類であるハダカイワシ類の利用が前年に多数発見されたことを受けて、その食性と行動の両面から、外洋の深海に生息する中深層性魚類の沿岸性鳥類に対する重要性を定量化することを目的とし、北日本の複数の離島において沿岸性の海鳥を対象とした調査を計画した。 今年度は、青森県鯛島、弁天島、北海道松前小島においてウミネコおよび同所的に繁殖するウトウも加えて、その行動および利用餌の調査を実施した。昨年度、一昨年度は、弁天島のウミネコにおいてセッキハダカ、ゴコウハダカ、シンカイエビ、ニセテカギイカ、エソといった複数種の中深層性魚類がウミネコにより捕食されていたことが確認された。しかしながら、今年度は、弁天島の他、鯛島、松前小島においても、ウミネコ、ウトウともに全く中深層生魚類の利用は確認されなかった。 GPS記録の分析、ウミネコ、ウトウともに、沿岸域で採餌が多く、過去に見られた沖合での採餌が減少する傾向が見られた。また、夜間採餌も、中深層生魚類が多く見られた岩手県二才島や過去の弁天島よりも少ない傾向があった。 北日本の海域では、2021年の6月から、8年ぶりにカタクチイワシがウミネコやウトウの餌から出現し、特に2022年には、その出現が顕著であった。カタクチイワシは好適な餌であり、これらが豊富な年は、海鳥はこれを専食すること多い。特に2022年のカタクチイワシの増加は、海鳥にとって採餌を行いやすい昼間の沿岸域での採餌を増加させた可能性がある。このことは、中深層生魚類が、海鳥にとって餌条件が悪い年における代替餌である可能性を示唆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、コロナウイルス感染症対策による調査自粛も大幅に軽減され、十分な調査を実施することが出来た。データ数も複数の島、複数の海鳥から多く得ることが出来た。 しかしながら、前年までのコロナウイルス感染症対策による調査自粛が響き、その際に実施すべきだった調査が一部残っている状況にある。また、今年度は、海鳥にとっての餌環境の好転のためか、全く中深層性魚類が出現しなかった。これまでは、調査期間中継続してウミネコからハダカイワシの利用が見られたことから、中深層性魚類が重要な餌であることが確認されたており、これらの利用がウミネコに特有なものであることが示唆されていた。今回の結果を受け、中深層性魚類の利用度を決める要因を、複数の年のデータを収集し、その環境状態と関連させて比較し、検討する必要が出てきた。よって来年度も同様の調査を進めるとともに、今年度までのデータと併せて詳細な解析を実施していく必要があると考えている。 今年度は、本研究実施期間においてはじめて十分に調査が出来た年であり、得られたデータや資料は、過去の調査においてサンプリングがなされていたデータや試料とともに、分析・解析が実施できた。胃内容物分析、DNA分析、安定同位体分析を導入し、従来の胃内容物分析では属レベルの同定しかできなかったり種不明としてしまっていたりしたサンプルを種レベルまで落とし込み、昨年度までのサンプルからは、5種類の中深層性魚類の利用を2島で確認することに成功した。これは、沿岸性鳥類の食性として世界的にみても極めて稀な発見であった。また、GPSデータの詳細解析を行い、2種の海鳥の重要な利用海域と夜間採餌の実態について詳細な空間統計解析を用いて分析を行うことができた。この結果は、学会においても発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度まで新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況が芳しくなく、調査が一部滞っていた。そのため、当初予定を変更し、1年研究期間を延長した。今年は、初めて実地での調査が比較的順調に実施でき、データを得ることが出来た。その中で、中深層性魚類の出現状況に年による大きな違いがあり、それが、海洋のレジームシフトと関連したカタクチイワシの出現状況に関連する可能性が示唆された。これについてより詳細に明らかにするため、来年度に年比較を行うためのデータを収集する予定である。調査では、引き続き青森県の複数の島、北海道松前小島においてウミネコ、ウトウの食性、行動追跡調査を行う方針である。これらをまとめ、海鳥ががどこでいつ中深層性魚類を捕食しているか明らかにし、彼らの繁殖にどの程度これらの餌が寄与しているかを定量化していく予定である。 さらに最終年度として、国際学会での発表と論文投稿を行う予定である。論文は既に3報を準備中である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度の調査は順調で良好な結果を得たが、昨年度、一昨年度のコロナウイルス感染症の拡大の影響を受け、計画していた調査調査がこの期間一切実施できなかった。そのため、期間を一年延長し、一部の予算を来年度に繰り越すこととした。来年度に更なる調査を実施するとともに、すべての年のデータを統合解析し、学会発表、論文執筆を行う予定である。
|