研究課題/領域番号 |
20K06193
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
江口 充 近畿大学, 農学部, 教授 (40176764)
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研究分担者 |
谷口 亮人 近畿大学, 農学部, 講師 (10548837)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自浄作用 / 台風 / 加水分解酵素 / 有機物分解 / 養殖漁場 |
研究実績の概要 |
養殖漁場では、水域生態系に負荷される有機物量が生簀がない場合に比べて大きい。この有機物負荷が当該水域の持つ自浄能力を超えると、有機汚濁、富栄養化、底層の貧酸素化といった自家汚染を起こす。養殖漁場の持つ自浄能力を評価することは難しい。有効な評価指標の一つが、当該水域における高分子有機物(例えばタンパク質)を低分子有機物(例えばアミノ酸)に加水分解する酵素活性の測定である。この高分子有機物が細菌群が利用可能な低分子有機物に加水分解されるプロセスが水域における有機物フローの制限要因となり、これを"gate keeper"と呼ぶ。 この有機物の流れを主に担う海洋細菌群の加水分解活性は、水温、塩分、溶存酸素などの環境要因により変化する。今までの研究から、水域が成層し、海底が貧酸素化しやすい夏季には、この加水分解活性が特に底層で停滞しがちであり、強風により鉛直混合が起こる冬季に活性が上がることを確認している。本研究課題では、加水分解活性が停滞しやすい夏季底層に強いインパクトを与える台風の影響を評価しようとしている。 2021年の台風発生数は例年よりも少なく、2020年に引き続き台風が暴風域を伴ったまま上陸することは皆無であった。野外調査で台風の影響を評価することが出来なかったが、室内実験により興味深い成果を得ることができた。それは、雨水の影響である。降雨により表層海水の塩分が低下するとペプチドの末端からアミノ酸を一つずつ切り離していくエキソペプチダーゼの活性が有意に高くなるのである。タンパク質の内部のペプチド結合を切るエンドペプチダーゼや糖類の加水分解酵素ではそのような傾向は確認できなかった。雨水により加水分解活性が上昇する現象を室内実験で確認したことは新規な知見と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年は2020年に引き続き、日本本土に暴風域を伴ったまま上陸した台風が一つもなかった。これは2008年以来13年ぶりの状況であった。本研究課題の主眼は台風が養殖漁場の水質・底質の浄化プロセスに与える影響の評価であり、台風に直接関連するデータを取得することが2020年に引き続き2021年も出来なかった。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響が長引いたことにより、野外調査の際に県を跨いでの移動が行い辛いという時期があり、野外調査自体をあまり実施できなかった。これらが研究の進捗を遅らせた主因である。 その半面、概要でも記載したが、室内実験では興味深い結果を得られた。台風の襲来が無かったために野外調査のデータを得ることが出来なかった点においては研究が大幅に遅れたともいえるが、室内実験の一部が大きく進んだ点を考慮すると「やや遅れている」と自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年は日本本土に上陸する台風があると想定して野外調査を計画する。ただし、2020年、2021年と暴風域を伴った台風の上陸が皆無であったことを考慮すると、2022年も台風の直撃があるとは言えない。そのため、2021年に引き続き様々な環境変化を想定した室内実験系を充実させ、今までの野外調査の結果を解釈する上で役立つデータを蓄積する。例えば、今までの野外調査における環境要因と加水分解活性の関連性を調べたところ、塩分と水域の加水分解活性に有意な負の相関があることが分かっている。降雨により塩分が低下すると、加水分解活性が上がるのである。後背地に大きな河川のない調査対象水域では台風等による降雨が加水分解活性を上げる可能性がある。2021年は雨水を使って塩分を下げた場合の室内実験を行い、雨水の何が加水分解活性にプラス効果をもたらしていることを確認した。しかし、室内実験で使用する天然海水の季節により、雨水の影響も異なる可能性も確認しており、そのメカニズムを解明する。アンモニア態窒素やリン酸態リンなど栄養塩濃度の変化(強風等による底泥堆積物の巻き上げにより水柱の栄養塩濃度が特に底層で上昇)が、水中の有機物の加水分解活性に影響するのか否かについても知見はない。台風前後で現場の加水分解活性がどの様に変化するのかを確認できたとき、そのメカニズム解明に役立つ室内実験系を推し進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
大きく2つ理由がある。ひとつは野外調査の実施回数が少なかったことである。これは2020年・2021年と連続で日本列島を直撃するような台風が全くなかったため、台風を狙った野外調査が実施できなかったことと、そもそも緊急事態宣言により県を跨いだ移動を伴う野外調査が実施困難であったことによる。もうひとつは、新型コロナ感染症による非常事態宣言により、大学キャンパス内への大学院生などの研究補助者の入構が大幅に制限されたためである。研究室への入室制限があったため、当初予定していた実験量を行うことが出来なかったのである。2022年は4月現在で緊急事態宣言、まん延防止等重点措置等が解除され、予防接種率も上がってきていることから、過去2年に比べて、実験量をある程度上げることも可能であると考えられる。そのため、2021年度以上の実験量が期待できる。
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