研究課題/領域番号 |
20K06194
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
小野 文子 岡山理科大学, 獣医学部, 准教授 (30416276)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | E. albertii / カモメ / カワウ / 漁港 / 内水面漁業 / 付着因子インチミン遺伝子 |
研究実績の概要 |
E. albertii は、2003年に新種として正式に発表された菌種である。本菌は腸管病原性大腸菌および腸管出血性大腸菌の病原因子の一つである腸管上皮細胞への付着因子インチミン遺伝子(eae)を保有している。一部の菌株は、Vero毒素遺伝子を保有し、国内において、本菌による大規模集団感染事例の発生、HUS(溶血性尿毒症症候群)の発症事例が報告されている。本菌については現在までに4株の全ゲノム配列が登録されており、他のEscherichiaグレードに属する菌株との系統解析により、明らかに異なる系統に属しているが、菌種内での系統樹の多様性が大腸菌と比べ明らかに小さいことから、鳥類等限られた動物種の中で進化を遂げて来た可能性が考えられている。本研究では、水産資源を介する食中毒のリスク危機管理に おいて、新たな感染経路としての漁港に飛来する渡り鳥である カモメ類および、国内留鳥で深刻な内水面漁業被害が問題となっているカワウを介する感染 リスクについて検索を開始した。 銚子漁港に飛来するカモメ類の糞便103検体より分離保存した菌株のうち、接着因子Eae遺伝子を検出した8検体について、塩基配列を確認したところ、E.albertiiと高い相同性が認められた。内水面漁協、沿岸養殖におけるリスクについて評価を行う上で、瀬戸内に面する愛媛県でその被害が甚大である、カワウについて同様の調査を行う目的で野鳥からの検体採取及び分離同定を開始した。愛媛県内瀬戸内の海岸に飛来するマガモ3検体、内水面漁業鳥獣被害対策で捕獲されたカワウ1検体および、カワウが塒として群生しているダム湖海面付近から採取した糞便7検体より分離した菌株からはE.albertiiとの相同性は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
愛媛県内の沿岸養殖、および内水面漁業において深刻な被害をもたらすカワウが保有する病原体について調査を行う目的で、鳥獣被害対策としてカワウの捕獲を行っている、県内漁協に協力を依頼し、捕獲動物の譲渡について調整を行う予定であったが、COVID-19感染症対応で依頼開始が遅延した。感染症対策を行い対面対応が可能となり、依頼調整を行ったが、狩猟行動が激減したことに加え、2020年11月に香川県で高病原性鳥インフルエンザの発生により野生鳥類の捕獲おび譲渡は停止した。 高病原性鳥インフルエンザの収束状況をみきわめ、2021年2月より、カワウが塒として群生する愛媛県西条市の黒瀬ダム湖面近くの山林より少数検体を採取するに留まることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで分離した、漁港に飛来するカモメ類の糞便から分離したE.albertiiについて生化学性状分析とともに、E. albertiiの 病原遺伝子の一つとして報告のあ るcdtBを標的とした PCRを行い、食中毒原因菌として分離された既知のE.albertiiと比較解 析を行う。 現状もCOVID-19の収束が見えない状況であるが、高病原性鳥インフルエンザ流行前の時期にカワウの糞便について野外サンプリングを行い、カワウの糞便中のE. albertii保有状況について調査を進める。 E.albertiiの効率的な検出系について、初期菌分離方法の検討および、E.albertii検出用プライマーを用いた遺伝子検索および16sシー クエンスにより同定を行う。陽性菌株より抽出したDNAから、eae遺伝子および、VT1、 VT2遺伝子の検索を行う。本来は前年度採取した検体について検討を行い感染実験対象とする菌株を決定し、動物への感染実験を本年度実施予定であったが、本年度は野外検体採取と調査を行い、感染実験開始準備を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症および高病原性鳥インフルエンザの流行により、当初予定していた検体採取が行えなかった。
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