研究実績の概要 |
海産魚の食性解明に資するエイコセン酸異性体組成のデータベース構築を目的として、表層および中層の中間捕食者に焦点を当てて日本近海で採集されたマサバ、サンマ、イカ3種、ハダカイワシ9種の合計105検体のエイコセン酸の6種の異性体(20:1n-15, n-13, n-11, n-9, n-7, n-5)の組成を決定した。 マサバとサンマの筋肉では20:1n-11と20:1n-9が主要異性体であった。これら2つの異性体の組成値は海域による差異が顕著であった。北西太平洋、三陸沖、福島沖では20:1n-11が全20:1の60%以上を占め最も割合が高かったのに対し、東シナ海では20:1n-9が60-80%と首位が逆転した。イカは外套膜では20:1n-9が90%以上であり海域間の差異は認められなかった。肝臓においても外套膜と同様に20:1n-9が最も高い割合であったが、それに次ぐ20:1n-11は三陸沖と石川沖で20-30%であったのに対し東シナ海は10%に満たず、海域間の違いが認められた。ハダカイワシの筋肉は、福島沖と東シナ海の4種で20:1n-9が60%以上で最も多かった。一方、三陸沖の5種は20:1n-9が多い2種と20:1n-11が多い3種に分かれ種間の違いが認められた。三陸沖のハダカイワシは種ごとに鉛直移動を行う水深が異なることが知られており、本研究の結果は深い生息域をもつ種で20:1n-11が優先することを示した。 以上、表層魚と中層魚は同一種あるいは近縁種であっても海域や水深によってエイコセン酸異性体組成が異なることを明らかにすることができた。異性体組成の海域差は太平洋と大西洋といった大洋間だけでなく、日本周辺でも認められることが初めて明らかとなった。
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