研究実績の概要 |
海産魚の食性解明に資するエイコセン酸異性体組成のデータベース構築を目的として、今年度は表層および中層の高次捕食者に焦点を当てて日本周辺の5海域で採集された太平洋クロマグロ成魚の筋肉合計131検体に含まれるエイコセン酸二重結合位置異性体(20:1n-15,n-13,n-11,n-9,n-7,n-5)の組成を決定した。 すべてのクロマグロで主要異性体は20:1n-11と20:1n-9であり、エイコセン酸全体の約95%を占めていた。両異性体の平均組成値の比は、太平洋三陸および茨城沖で(n-11):(n-9)=61:39~62:38、日本海新潟~山形沖で57:43~64:36、日本海鳥取~兵庫沖で53:47~62:38であったのに対し、南西諸島近海では比が逆転し45:55~13:87であった。このことから、クロマグロのエイコセン酸は本州以北では20:1n-11、南西諸島では20:1n-9が優先的であり、海域間で差異があることが明らかとなった。また、南西諸島においては2017年と2019年採集の検体でいずれも20:1n-9が優先するもののその比は2017年で極めて高く、採集年に伴う顕著な変動が認められた。 昨年度に中間捕食者として分析したマサバ、サンマ、イカ、ハダカイワシのうち、表層性のマサバとサンマは太平洋福島沖~北西太平洋では20:n-11が、東シナ海では20:1n-9が最も顕著な異性体であり、南北の海域差が認められていた。今年度のクロマグロにおいても同様のパターンが認められたことから、より高次の捕食者においてもエイコセン酸異性体組成の海域差は維持されることが推察された。
|