研究実績の概要 |
今年度は、エイコセン酸の起源とされるカイアシ類、高次捕食者であるクロマグロ成魚の肝臓・卵巣、底生魚であるキチジとその餌生物におけるエイコセン酸二重結合位置異性体(20:1n-15, n-13, n-11, n-9, n-7, n-5)の組成を決定した。また、表層魚・中層魚、カイアシ類、新種の海洋性細菌について、異性体分析の前段階に相当する全脂肪酸組成の情報を公表した。 カイアシ類は、日本海で採集された種はすべて20:1n-9を最も主要な異性体として含んでいた。北極海のカイアシ類もほとんどの種で同様であったが、北方海域で優占するNeocalanus属のみは20:1n-11を最も多く含んだ。一昨年度にサンマ・サバ(表層魚)、ハダカイワシ(中層魚)で認められた異性体組成の南北間の海域差に、餌生物であるカイアシ類の異性体組成が関与している可能性が初めて示唆された。 クロマグロは、肝臓・卵巣においても筋肉と同様に20:1n-11と20:1n-9が主要異性体であった。全個体の20:1n-11の組成値を海域別にプロットしたところ、太平洋と日本海は50%付近に集中したのに対し、南西諸島海域では20%以下と70%以上の2つのグループに分かれた。南西諸島には食餌履歴が異なる2群のクロマグロが混在することが推察された。 キチジの主要異性体は20:1n-11と20:1n-9で、これらの他に20:1n-13と20:1n-7も約20%までの範囲で含まれた。潜在的餌生物としてクモヒトデ、十脚甲殻類、多毛類、貝類、頭足類とともに異性体組成を主成分分析により可視化したところ、キチジは十脚甲殻類と重複してプロットされた。キチジの主な脂肪酸供給源は主食とされてきたクモヒトデよりも十脚甲殻類またはそれを捕食する魚類・イカである可能性が高いと考えられた。
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