研究課題/領域番号 |
20K06202
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青山 潤 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (30343099)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | サケ / 産卵環境 / 選択性 / 水温 |
研究実績の概要 |
本年度は鵜住居川におけるサケの産卵環境の選択性に関する調査を実施した。河口から1-4.4kmの区間(調査区間)を計10個に区分し、調査区域を設定した。産卵期を網羅する9月から2月にかけて隔週で調査区間を踏査し、新たに形成された産卵床の位置と数を記録した。また、10月から12月にかけて、それぞれの区域でピエゾメーター法により河床内20 cmの水温を測定した。さらに、新しく形成された産卵床(102床)とその近傍の非産卵場所(67点)の河床内及びそれぞれの表流水について、水温、溶存酸素量(DO)、電気伝導度(EC)を測定した。また、全ての測点の河床材料を分類・記録した。その結果、鵜住居川では10月26日から1月20日の間に412床の産卵床が観察された。また、河床内水温(1.0-4.0°C)および河床材料は区域ごとに大きく異なっていた。一方、産卵床内の水温、DO、ECは10.9 [8.6-12.0]°C、8.1 [6.8-10.8] mg/L、75.1 [69.9-85.6] μS/cmであり、表流水よりも水温とECが高く、DOは低かったため、地下水湧出の影響を受けていることがわかった。産卵床内と非産卵場所の河床内環境を比較したところ、両者の水温、DOに差はなく、産卵床のEC(75.1 μS/cm)は、非産卵場所(85.5 μS/cm)よりも有意に低かった。河床材料は、産卵床では礫が優占し、非産卵場所では砂が優占していた。以上の結果から、昨年度明らかになった小槌川における多量の湧水を忌避する産卵環境選択と異なり、鵜住居川では湧水を選好することが示唆された。これは、河床内水温が概ね8°C以上に保たれている小槌川では貧酸素環境をもたらす湧水が忌避されるのに対し、河床内水温が1.0から14.0°Cと大きく変動する鵜住居川では適水温を確保するため湧水が選好されていることを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近年、我が国のサケ回帰資源の減少が著しく、特に岩手県では歴史的な不漁を記録した昨年度をさらに大きく下回り、ピーク時の1-2%程度にまで落ち込んでいる。このため、資源造成を目的とした人工孵化放流事業における計画採卵数の達成すら困難となっており、孵化場の現場関係者は頭を悩ませている。本研究では、自然産卵に由来する野生魚と人工孵化放流魚の降海生態の差異および水温環境がそれに及ぼす影響を明らかにすることを目的の一つに掲げ、両者の比較研究を計画している。しかしながら、現状では極めて貴重な人工孵化魚を調査用に提供してもらうことはもちろん、河川や沿岸域におけるサケ稚魚の採集に必要な特別採捕許可への同意を得ることすら難しい状況となっている。本研究のみならず、今後、長く地元の漁協や孵化場関係者と良好な関係を維持していくため、慎重な対応をとらざる得ない状況である。このため、本研究における稚魚の降海行動に関する研究では、野生稚魚に関する予備的な調査を開始しているものの、比較対象とする人工孵化放流魚の見通しが立たず、調査全体に遅れが生じている。
|
今後の研究の推進方策 |
産卵親魚については、さらに調査を継続し、産卵床数や産卵場所の経年変化に関する情報を蓄積する。一方、稚魚については、来シーズンがほぼ本研究の最終年度に当たることから、まずは人工孵化放流魚との比較にこだわることなく、三陸沿岸河川におけるサケ野生稚魚の降海時期や降海行動を明らかにすることを第一の目的として調査を実施することとしている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、自然産卵に由来する野生魚と人工孵化放流魚の降海生態の差異および水温環境がそれに及ぼす影響を明らかにすることを目的の一つに掲げ、両者の比較研究を計画していた。しかしながら、岩手県におけるサケ漁獲量は歴史的な不漁を記録した昨年度をさらに大きく下回り、本年度の回帰親魚数はピーク時の1-2%程度にまで落ち込み、資源造成を目的とした人工孵化放流事業における計画採卵数の達成すら困難となっている。このため、本研究の開始以来、調査用に人工孵化魚を提供してもらうことだけでなく、河川や沿岸域におけるサケ稚魚の採集に必要な特別採捕許可への同意すら得ることが難しい状況となっている。本研究における稚魚の降海行動に関する研究では、野生稚魚については予備的な調査を開始しているものの、比較対象とする人工孵化放流魚の見通しが立たず、この部分に該当する支出計画に変動が生じている。本研究における実質的な最終年度となる来シーズンも状況に変化がない場合、野生魚に絞って計画していた調査を進める方針である。
|