サケマス類の中で進化的に最も進んだ生活史を持つサケ(Oncorhynchus keta)は、淡水域への依存度が低く、生涯のほとんどを海で過ごす。加えて、産卵遡上した親魚の多くが人工ふ化放流事業により捕獲されるため、これまで我が国の河川においてサケが顧みられることはなかった。そこで本研究は、三陸沿岸の河川をフィールドとし、(1) 産卵床調査および稚魚調査を通じ、サケの産卵・降海生態を明らかにする。(2)放流魚と野生魚の降海行動の差異を明らかにする。(3)水温環境の異なる河川の比較を通じ、(1)および(2)に対する水温の影響を明らかにすることを目的とした。これまでの研究により、三陸沿岸河川におけるサケの産卵床形成に対する環境影響などは概ね明らかになってきたが、稚魚の降海生態については、新型コロナウィルスの感染拡大およびサケ回帰資源の歴史的な減少などにより十分な調査が実施できていなかった。そこで昨年度は、サンプリングにより降海稚魚の生態情報を得るだけでなく、遺伝子解析手法を用いた放流魚・野生魚の由来推定などを組み合わせることにより、わずかな標本からできるだけ多くの情報を抽出する必要があると考え、マイクロサテライトマーカー14座による個体識別法を開発した。本年度は、得られた降海稚魚に本法を適用することで、それぞれの由来を明らかにすべくサンプリングを実施したが、最終的に稚魚を得ることができなかった。これは昨シーズンの岩手県沿岸におけるサケ漁獲量が、ピーク時のわずか0.2%となる134トンにまで減少したことに伴い、自然産卵をする野生魚が激減したためと考えられる。
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