前年度までのRNA-seqとqPCR による解析の結果,「仕立て」により活性酸素分解酵素であるSODの外套膜での遺伝子発現が影響されることが明らかになった。一方,2019年より全国の真珠養殖場で問題となっている「外套膜委縮症」の成貝で仕立てにより発症しやすくなると言われている。我々はまず,外套膜委縮症における褐変と呼ばれる貝殻内面の色素沈着の形成にはメラニン形成に関連するチロシナーゼ遺伝子や,炎症で生じる活性酸素の分解酵素であるSOD遺伝子の発現量が関連することを明らかにし,さらに,本症の原因ウイルス感染後の外套膜外液と血リンパのSOD活性を経時的に測定した。外套膜外液のSOD活性はウイルス接種6日後まで低下し,その後,急激に上昇し12日後に最高値となった。タンパク濃度は9日後まで低下し15日後に接種前の値に戻った。このように,SOD活性はタンパク濃度の回復より早く上昇しており,ウイルス感染に速やかに反応していると考えられた。血リンパでも類似する動態が見られた。外套膜でのSOD遺伝子の発現は3日後に接種前の約2倍になった後,一旦低下し12日後から再び緩やかに上昇した。以上の結果から,アコヤガイの夏季外套膜萎縮症では,原因ウイルスの感染により外套膜や外套膜外液中で活性酸素が増加しSOD活性が上昇することが,遺伝子発現量に加え酵素活性の動態からも推定された。 先行研究から,仕立てはガレクチンに影響すると考え,仕立ての有無とガレクチンの関係を解析したが,関連が認められなかった。そこで,外套膜の遺伝子発現についてRNA-seqを行ったところ,いくつかの主に免疫関連遺伝子がDEGとなった。qPCRの結果からSODが顕著に変化することが分かった。仕立てにより発症率が上がる感染症とSODの関連を明らかにした。
|