研究実績の概要 |
東北地方沿岸部は,親潮と黒潮が衝突する潮目に近い海域であり,我が国における極めて良好な漁場として位置付けられる.しかし,2011年3月に発生した東日本大震災により,海底の地盤沈下,流動場の変化および磯焼けの問題等により,現在も震災以前のような磯根資源豊かな状態には戻っていない.また,漁業者の減少・高齢化と後継者不足も深刻な問題となっている.本研究では,事前に岩手県宮古市重茂地先海域に藻場造成構造物を4基設置し,海藻の繁茂状況とウニの蝟集量調査を実施した.一般的に,海藻被度を増加させるには「移植」,「光供給」,「栄養塩供給」,「基質の供給」,「浮泥除去」という技術が用いられるが,当該海域での磯焼け発生・継続要因を考慮して「移植」,「基質の供給」を選択した.海藻被度の増加を担う核藻場の造成の方法として,構造物および基質に直接種糸を巻きつける「構造物直巻法」, 構造物に設置した柱状体間にロープを渡してウニの這い上がりを防ぐ「柱間ロープ渡し法」, 種糸付きロープを構造物や天然の岩礁などに取り付けた「ロープ直結法」, ウニが這い上がる方向とは逆の上から下に降りる行動に難があると見なし,多孔質基質をロープで海中に吊り下げて昆布の幼体時期に捕食されることなく生長させることを想定した「基質吊り下げ法」を考案した.これらの手法を試みた結果,「基質吊り下げ法」が有効だと分かった.しかし,本手法を大規模かつ広範囲に採用するとなると,岩礁や構造物にロープを結び付ける構造上の問題,経済性,設置場所が制限される等の汎用性が低いという問題が発生した. そこで,海藻の着生と成長が認められた「基質吊り下げ法」で得られた知見を基に,新たに「浮上式投入法」を考案し,経済的にも安価かつ高密度にウニが生息する場所でも昆布場を造成でき,ウニと昆布の両者の共生と高齢の漁業者らが安全に操業可能であるという知見が得られた.
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