研究課題/領域番号 |
20K06212
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
笠井 宏朗 北里大学, 海洋生命科学部, 特任教授 (00221870)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 冷水病菌 / シロサケ / MLST解析 / サケマス増養殖 |
研究実績の概要 |
岩手県内のサケマス孵化場のシロサケ(Oncorhynchus keta)の稚魚から、冷水病菌(Flavobacterium psychrophilum)を分離培養し、多重遺伝子座位の塩基配列の多型に基づいてゲノムの多様性を分析すると共に、関連する表現型についての解析を進めている。岩手県内のサケマス孵化場で飼育するシロサケ稚魚の体表、鰓、腎臓から、トブラマイシン耐性株を205株を分離培養し、冷水病菌検出用PPIase遺伝子を標的とするPCRによって、PCR陽性株56株を得た。ところが、PPIase-PCR陽性株にh、F. psychrophilumとは同定されない株を含んでいることが明らかになったため、系統分類マーカーgyrB遺伝子を標的とするプライマーを新たにデザインし、トブラマイシン耐性株をgyrB-PCRによってスクリーニングした。その結果、29株が陽性となった。29株は全て冷水病菌F. psychrophilumと同定された。分離源の内訳は、体表由来株が1株、鰓由来株が11株、腎臓由来株が17株であった。さらに、今回分離培養された冷水病菌は他県から移入された稚魚に偏っており、県内で採卵、受精され、孵化した稚魚に由来する冷水病菌は1株であったことがわかった。今年度も引き続き、冷水病菌を採集し、遺伝子タイピングを進めていく予定である。また、トブラマイシン耐性を示した冷水病菌の類縁株を分子系統解析したところ、冷水病菌F. psychrophilusに近縁でかつ新種と考えられる6株を見いだした。これらの株は、多重遺伝子座位の塩基配列の多型に基づいて2つのグループに分けられた。いずれのグループも、冷水病菌F. psychrophilumとは異なり、4%NaClを含む培地で生育した。さらに、カゼイン分解活性、シロサケ赤血球の溶血活性を示した。新種として論文発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年は、新型コロナ感染防止対策の影響等もあり、県内の水産技術センターとの情報共有やサケマス孵化場でのサンプリングが十分に実施できなかったため、採集できた冷水病菌は一株に留まった。しかし、2021年に入り、県内の水産技術センター及びサケマス孵化場との協力体制が整備され、2021年3月に実施したサンプリングを順調に実施することができるようになった。また、トブラマイシンを含む冷水病菌用培地に出現するコロニーから精度良く冷水病菌Flavobacterium psychrophilumを検出できるgyrB-PCR法の開発に成功したため、冷水病菌を効率的に選抜することができるようになり、2021年に入って既に28株の冷水病菌の採集に成功した。冷水病菌の近縁株の採集も進んでいる。それらの株の稚魚への感染試験は実現できていないが、試験管内の分析から、近縁株がシロサケ赤血球の溶血活性を持つこと、冷水病菌とは異なり4%以上のNaClを含む培地でも生育可能である等、特徴的な表現型も明らかにすることができており、2021年度中には論文に投稿する目処がついている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年3月に岩手県内のサケマス孵化場で飼育していたシロサケ稚魚から採取された冷水病菌Flavobacterium psychrophilumについてMLST法を利用して遺伝子の塩基配列を解析したところ、既知の冷水病菌株とは異なる塩基配列の多型を持つ株であることが明らかになった。そこで、シロサケ由来の新しい遺伝子タイプの冷水病菌として全ゲノム解析を行い、既存の株のゲノムとの比較検討を行う。平行して、生育特性、滑走能、付着能、タンパク質分解能、溶血能等を試験し、表現型の特徴を明らかにする。今後も、シロサケ稚魚から冷水病菌株の採集をさらに進めていく。冷水病の採取を進めるに当たっては、遺伝的多様性を簡便に解析するための手法開発もあわせて実施し、効率的に多様な冷水病株を取得する。県内の水産技術センターから海産親魚の体腔内からも冷水病菌様の細菌を検出した例があるという情報を得たので、今年度は、孵化場で飼育している稚魚だけでなく、孵化場から放流後、湾内回遊している稚魚の体腔内及び、定置網で採捕された親魚の体腔内からの冷水病菌の採取も試み、それらの感染経路などについても調査研究を計画している。
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