研究実績の概要 |
シロサケ(Oncorhynchus keta)は北海道と岩手県を中心に年間14億尾以上の稚魚がサケ孵化場で人工孵化放流されている最重要魚種である。しかし、健康な稚魚生産に影響があると考えられる冷水病菌についての系統的な遺伝子型の解析例はなかった。そこで、シロサケ由来の冷水病菌の分離培養及び遺伝的、生理的特徴の解析を実施した。孵化場で虚弱な遊泳を示したシロサケ稚魚の鰓、体表、腎臓から20種131株を分離培養した。そのうち16株をFlavobacterium psychrophilumと同定した。それらを7種類の遺伝子に基づく多座位遺伝子タイピング法で遺伝的多様性を解析したところ2菌株(21FP01, 21FP22)は、新規な遺伝子型を示した。収集したシロサケ稚魚由来冷水病菌の遺伝子情報を類縁株の遺伝子情報を比較して冷水病菌を特異的な塩基配列を特定した。得られた冷水病菌特異的塩基配列を利用して、仔魚飼育槽において、冷水病菌が高濃度に存在する箇所の特定を試みたところ、仔魚飼育槽から流入する水には冷水病菌は検出されなかったが、流出水からは冷水病菌が検出された。特に仔魚床付着菌やミズカビ感染卵付着菌に高濃度に冷水病菌が含まれている事が明らかになった。本研究でシロサケ稚魚から単離した冷水病菌の中には疎水性表面への高い付着能を有する株が含まれており、こうした疎水表面付着株は稚魚の飼育環境でバイオフィルムを形成する可能性があることが示唆された。今後、本研究で得られたゲノム情報に基づいて、稚魚生産現場におけるの冷水病菌の生態について研究を継続する。また、今回分離された冷水病菌の類縁株の中には、キングサーモンの致死的感染原因菌種と報告された菌種(F. tructae)が含まれていたことから、本菌種についても稚魚生産現場で注視する必要があることを現場にフィードバックする。
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