本年度も冬期のヒブダイ標本収集を継続し、当初の予定を上回る数の標本を得ることができた。標本個体ごとの漁獲情報と寄生虫の寄生率・寄生強度を元に、寄生虫の出現状況を海域ごとにまとめた上で、漁業者への聞き取りを再度実施して、寄生虫の出現傾向についていくつかの裏付けを得ることができた。 寄生虫がブダイ科魚類の性転換に及ぼす影響は検証の途中であるが、ブダイ科同様に雌性先熟の性転換をおこなうタチガミフエフキ(フエフキダイ科フエフキダイ属)でも同様の検証をおこなった結果、性転換への影響は検出できなかったものの、寄生虫が宿主の死亡率を上昇させていることが明らかになった。 タチガミフエフキにおいて、筋肉中にディディモゾイドが寄生している個体、筋肉中にディディモゾイドが死後の残骸として残っている個体、未寄生の個体、の3つ出現率を、宿主の年齢ごとに調べたところ、その割合が変化することが明らかになった。この年齢による変化は、①寄生虫は死後10年以上にわたって宿主の筋肉中に残骸として残る、②寄生された宿主は未寄生の個体より死亡率が高い、③一度寄生された宿主は寄生虫が死んだ後も未寄生の個体よりわずかに死亡率が高い、ことを仮定すると説明できる。未寄生個体の死亡率、被寄生個体の死亡率、寄生から回復した個体の死亡率、寄生率の初期値、寄生からの回復率、の5つのパラメーターを用いて年齢別の上記の出現率を再現することを試みた。その結果、未寄生のタチガミフエフキは年間死亡率が約40%であるのに対し、ディディモゾイドに寄生されたタチガミフエフキは年間死亡率が約1.5倍の60%にもなると考えられた。寄生虫が天然魚の死亡率を上昇させることを定量的に示すことができた。
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