研究課題/領域番号 |
20K06221
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
別府 史章 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10707540)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | C2C12細胞 / 筋管形成促進効果 / グリセロリン脂質 / 骨格筋 / 水産脂質 / ヒトデ / ホスファチジルコリン |
研究実績の概要 |
超高齢社会にある我が国において、生活習慣病や要介護の問題を背景に骨格筋機能の維持は非常に重要な健康課題である。本研究では食品因子によるアプローチを目的とし、特に水産物由来脂質成分の骨格筋機能への有効性を検討している。 筋分化促進効果を示すイトマキヒトデ脂質のホスファチジルコリン(PC)画分について、PCサブクラス組成比をHPLC分析すると、ジアシル型PCに加え、アルキルアシル型PCが約40%、プラスマローゲン型PCが約10%含まれることが分かった。そこで、これらの活性を比較評価したところ、筋管形成促進効果はサブクラス間で異なることを見出した(未発表、投稿準備中)。また、ヒトデPC処理した細胞では筋管マーカーであるミオシン重鎖の発現増加が認められるとともに、他臓器と連関したエネルギー代謝調節に関わるマイオカインIL-15のmRNA発現量にも増加が認められた。さらに、筋委縮関連遺伝子MuRF1およびatrogin-1 mRNA、これらの発現を制御する転写因子FoxOの核内タンパク質発現量が低下し、ヒトデPCの筋タンパク質代謝制御作用を介した筋委縮予防の有効性が示唆された。一方、対照で用いた大豆PCでは、筋管サイズの増大や関連する遺伝子発現量に変化は認められなかった。以上、本研究ではPCサブクラス間での筋分化における作用の違いが示され、特有な分子構造とその組成を持つヒトデ脂質の優れた健康機能性の新たな可能性が示唆された。 その他、優れた筋形成促進効果を示す脂質素材を新たに見出し、in vivo試験への研究展開に有用な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筋管形成モデルC2C12細胞を用いた試験では、深海性魚介類や底生生物、魚卵を中心にした脂質抽出物のスクリーニングにより筋分化促進効果を示す有望な素材を新たに見出している。順次、活性成分の特定とその作用機序についての詳細な検討を行っており、例えばヒトデ脂質では、筋管サイズの増大と関連する筋タンパク質代謝制御作用を明らかにするとともに、活性を示す特定の脂質構造についても新たな知見を得ることができた。 In vivo評価について、昨年度の検討によりSAMP8マウスでは筋量低下とともに慢性炎症や酸化ストレスレベルの増加ならびにインスリン作用の減弱といったヒトと共通する老化現象が認められ、本研究の目的に合致した筋委縮モデルであることを確認した。本年度はさらに、生体内環境および食事成分による筋形成/再生への影響を評価する系として、マウス骨格筋から採取した筋芽細胞の培養方法を検討した。初代培養した筋芽細胞から一定の割合で筋管形成が確認されており、筋芽細胞の採取と分化効率の向上が必要であるが、筋形成にフォーカスした評価が可能になりつつある。 細胞培養系で効果があった有望な素材は実験マウスを用いて引き続き検証する予定であり、当初計画した研究はおおむね順調に進行していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
筋機能維持に有効な水産脂質として、in vitroで特に筋形成促進効果が高かった素材を数種選抜し、実験マウスを用いて検証することを計画している。すなわち、各種脂質抽出物を含む飼料を与え、筋量、糖・脂質代謝、マイオカイン産生への影響、さらには初代培養筋芽細胞を用いて筋形成能への影響を調べる。また、サルコペニアでは速筋繊維に特徴的な筋委縮が認められていることから、筋繊維組成についても検討する。 機能発現に関わる分子機構解析では、筋タンパク質代謝および筋形成に関わる遺伝子やタンパク質の発現を調べるほか、筋委縮に関わる酸化ストレスや慢性炎症に対する制御機能についても検討し、生体組織として水産脂質成分による影響を明らかにする。これにより、筋機能低下に対する新たな予防戦略、未利用水産資源の有効活用方法の提案に資するものとする。
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