超高齢社会にある我が国において、骨格筋機能の維持が重要な健康課題となっている。本研究では食品因子によるアプローチとして、骨格筋機能の維持・向上に有効な水産脂質成分の探索を目的とし、R4年度は以下の成果を得た。①C2C12細胞の筋管サイズ増大効果や代謝制御作用を示す脂質成分および脂質画分を深海性魚介類およびスケトウダラ卵巣から新たに見出した。また、ヒトデ由来リン脂質に認められた筋管形成促進効果はリン脂質サブクラス間で活性に違いがあることを明らかにした。②老化モデルSAMP8マウスにおける魚油の筋委縮予防効果を認め、加齢に伴い増大する酸化ストレスや小胞体ストレス、炎症の抑制作用が一部関わる可能性が示唆された。③C2C12細胞の筋分化を阻害するH2O2刺激下、n-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)のEPA/DHA処理により筋管形成が回復し酸化ストレスに対する筋分化能保護効果を見出した。以上、筋機能維持・向上に有効な食品因子として水産脂質成分の新たな可能性が示された。 研究期間全体として、培養細胞を用いたスクリーニングにより筋機能制御に有効な脂質成分を複数種見出すことができた。その中で明らかになった水産物の脂質構造に起因する特徴的な筋管形成促進効果は、構成脂肪酸に依らない水産脂質の新たな筋機能制御作用を示す興味深い結果である。また、老化モデルマウスおよび培養細胞系で明らかにしたn-3PUFAの筋委縮予防作用は、機能性との関連性が不明瞭な水産脂質構造の特徴的な作用を明らかにする上で有用な基礎的知見である。これをもとに多様な水産脂質の筋機能制御作用を明らかにしていくことにより、新たな筋委縮予防や治療方法の開発、未利用水産資源の活用への貢献が期待できる。
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