研究課題
メコンデルタで盛んに養殖されているパンガシウスは、狭塩性の淡水魚であり、高塩分環境では生息することはできない。本研究では、水温上昇が浸透圧調節機能に及ぼす影響を詳細に検討することで、地球温暖化が魚類の養殖にどのような影響を及ぼすのか予測することを目的とした。①鰓イオン輸送体タンパク質の遺伝子発現量の変化パンガシウスを各10尾ずつ4群(塩分濃度0ppt/水温27℃(対照区)、0ppt/33℃、10ppt/27℃、10ppt/33℃)に分け5日間飼育した。飼育終了時の各群の血液浸透圧は塩分濃度の上昇に伴い有意に上昇したが、温度による影響は見られなかった。上記の4群からサンプリングした鰓で、リアルタイムPCR法によって各種イオン輸送タンパク質の遺伝子発現量を定量した。NKAの3つのアイソフォーム(α1、α2、α3)のうちNKAα1を対照区と10 ppt/27℃で比較すると、10 ppt/27℃で有意に発現量が増加した。しかし、NKAα1の発現量に対する塩分濃度と水温の交互作用は認められなかった。②下垂体ホルモンの遺伝子発現量の変化パンガシウスを0 pptと10 pptの2群に分け長期間(10か月)飼育し、下垂体における成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)の発現量を定量した。GHは海水順応ホルモンとして知られるが、10 pptで飼育した群で発現量が有意に上昇した。このことから、パンガシウスにおいてもGHが環境水の塩分濃度上昇に順応する際に、体液のイオン濃度と浸透圧を低下させる方向に働くホルモンであることが示唆された。一方でPRLは淡水順応ホルモンとして知られており、10 pptの群で有意に発現量が減少した。このことから、パンガシウスにおいてもPRLが淡水環境に順応する際に、体液のイオン濃度と浸透圧を上昇させる方向に働くホルモンであると考えられた。
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Fisheries Science
巻: 88 ページ: 149-159
10.1007/s12562-021-01562-1