研究課題/領域番号 |
20K06224
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
上田 宏 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 連携研究員 (00160177)
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研究分担者 |
酒徳 昭宏 富山大学, 学術研究部理学系, 講師 (20713142)
糸井 史朗 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (30385992)
松原 創 金沢大学, 生命理工学系, 教授 (50459715)
安東 宏徳 新潟大学, 佐渡自然共生科学センター, 教授 (60221743)
鈴木 信雄 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (60242476)
山本 雄三 公益財団法人海洋生物環境研究所, 海生研実証試験場, 研究員 (60532405)
木下 滋晴 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (40401179)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トラフグ / 産卵場選択 / 微生物群集構造 / フグ毒(TTX) / ホルモン / 記憶因子 / 嗅覚応答 / ニオイ受容体 |
研究実績の概要 |
トラフグ稚魚がテトロドトキシン(TTX)に誘引されることが報告されており、トラフグ親魚がTTXに誘引されるかを解明するため、次のような解析を行った。①Y字水路におけるTTXに対する誘引行動の解析、②電気生理学的なTTXに対する嗅電図の解析、③脳内の記憶因子(NMDA受容体)と生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH1)遺伝子の発現解析、④嗅上皮のニオイ受容体遺伝子の発現解析、⑤七尾湾のトラフグ産卵場におけるTTXの検出解析、⑥七尾湾のトラフグ産卵場におけるTTX産生細菌の検出解析。 2021年度の解析により、次のような結果を得た。①Y字水路においてTTX (500, 1000, 2000UNIT)に対して成熟後のトラフグ親魚は誘引されなかった、②1/3海水を用いてトラフグ親魚のL-AlanineとTTXに対する嗅電図の測定を行ったところ、非常に小さな応答しか得られなかった、③NR2A遺伝子発現量はTTX暴露群の雄で高い傾向、GnRH1 遺伝子発現量はTTX暴露群で雌雄とも低い傾向がみられた、④ニオイ受容体遺伝子はTTX暴露群と対照群で異なるバーコードシーケンスを付与したcDNAライブラリーを構築した、⑤トラフグ産卵場の底砂から公定法に準じて酢酸抽出後、活性炭カラムで濃縮・簡易精製後、LC-MS/MS分析を実施したが、TTXは検出されなかった、⑥次世代シークエンサーmiseq(イルミナ)を用いてトラフグ産卵場の海底堆積物と海水中の微生物群集構造を解析したが、TTX産生細菌(Vibrio alginolyticus)は検出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度も新型コロナウイルス感染症のため、研究代表者と分担者が七尾湾に行き解析することができなかった。しかし、金沢大学環日本海域環境研究センター臨海実験施設および金沢大学能登海洋水産センターの研究分担者により研究・調査が行われ、研究分担者に研究試料を郵送することにより各研究分担者が夫々の資料を解析することができた。能登海洋水産センターに移設したY字水路において、例数は少ないが成熟後のトラフグ親魚を用いて、500, 1000, 2000UNITの濃度のTTXに対する誘引行動を解析した。その結果、何れの濃度のTTXに対してもトラフグ親魚は誘引されなかった。しかし、嗅覚記憶因子と考えられるNMDA受容体NR2遺伝子発現量が、TTX暴露群の雄で高い傾向がみられた。1/3海水を用いた嗅電図測定でL-AlanineとTTXに対して非常に小さな応答しか得られなかったのは、shunting効果によるものであると考えられ、コントロール水の塩分濃度を更に低くする必要があると考えられた。ニオイ受容体遺伝子は、各試料のcDNAライブラリーはTapestationによりサイズと濃度を確認後、マルチプレックスシーケンスを行うために混合した。クサフグの産卵来遊時の海水を採取し、活性炭カラムで濃縮・簡易精製後、LC-MS/MS分析によりTTXの検出を試みたが、TTXは検出されなかったことにより、トラフグ産卵場においてはTTXの検出は出来ないと判断された。産卵場の海底堆積物と海水中の微生物群集構造は、非産卵期にはActinobacteria門細菌が, 産卵期にはCyanobacteria門細菌の割合がそれぞれ増加することが解析された。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2022年度は、コロナ禍の状況により金沢大学の受け入れ体制が整えば、トラフグの産卵盛期である5月下旬に、研究代表者と研究分担者が金沢大学能登海洋水産センターに集結して、次のような解析を行う計画である。①Y字水路において高濃度TTX (8000UNIT)に対する成熟したトラフグ親魚の誘引行動を解析する、②嗅覚刺激に用いるコントロール水の海水の濃度を1/3海水より更に薄い濃度(10倍)に希釈したものを用い、アミノ酸およびTTXに対する嗅電図の測定を行う、③Y字水路におけるTTX誘引行動実験における個体の脳内のGnRH(gnrh1、gnrh2、gnrh3)とNMDA受容体(grin1、grin2a-1)の遺伝子発現量を解析して、誘引行動とGnRHとNMDA受容体との関係について検討する、④ニオイ受容体遺伝子は、構築したcDNAライブラリーのシーケンスを行い、得られた配列データを既存のトラフグゲノムにマップし、トラフグで同定されているニオイ受容体遺伝子の発現パターンを明らかにするとともに、全遺伝子を対象に、TTX誘引実験区および対照群区間での発現変動遺伝子を抽出し、TTX検知に関わる可能性のある遺伝子群を探索する、⑤トラフグ親魚の誘引実験に使用するTTXの抽出・簡易精製を進め、前年度より感度良く誘引実験を実施できる準備を進める、⑥トラフグ産卵場の海底堆積物と海水中の微生物群集構造の季節変動やその周年性など七尾湾の細菌群集構造の特徴を解析し, 他の海域との違いを検討する。
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